荷解きを嫌がる

 水曜日、仕事後に電車で帰宅の途についている最中に、寄り道をしたいと考えた。いつもの喫茶店、そんなに良く行かないけれど行ったことのあるカフェ、行ったことの無いレストラン、欲しかったあるモノを置いているショップ、、、、どこへ行こうかな、、、と考えている間に、いつもの喫茶店へ行くために下車すべき駅で降りそびれた。いつもの喫茶店でないなら、そんなに良く行かないけれど行ったことのあるカフェに行くか、、、その付近でインスタ投稿で見た別のカフェに行くか、、、と考えている間に、またしても下車すべき駅で降りそびれて通過。スマホに同期してあるクレジットカードの次月支払い額を見て、欲しかったあるモノを置いているショップへ行くことは自粛した。最後、行ったことの無いレストランへ行こうか!と盛り上げてみて、気持ちが大きくなった。途中下車の寄り道から外れ、乗り越しの寄り道へと変更した。地元の駅より3つほど先の駅で下車した。

 レストランへ向かう途中、MAPを見た途端になんだか盛り上がって大きくなっていた気持ちが、普段の気持ちのサイズに戻ってしまった。その足で向かったのは、月に一度は行くカフェ。甘いケーキとブレンドコーヒーをいただきながら、頭の中で独り言を呟いて、この後の行動予定を立てた。

「はて?まだ週半ばだから長居は厳禁、明日の体力を残すべく帰りにお弁当を買って帰ろう。見たい雑貨屋さんと本屋さんだけ立ち寄ってすぐに帰ろう。」

 帰宅してドアを開けたところで、困難の壁にぶつかった。  ドアを開けて直ぐに、腰まである高さの段ボールにぶつかった。それは、重くて玄関から部屋の中に持ち込めなかった段ボールに入った2ヶ月分のウォーターボトルと、日曜日にお洒落なインテリアショップで購入した素敵なゴミ箱2つが入っている段ボールが積み重なった壁だ。今日こそ、開けないと。今日こそ、ゴミの日だから段ボール解体しなくては。今日こそ、ウォーターサーバーに設置しているボトルも空になるから、ボトルの交換もしなくては。手にはお弁当を提げ、あとは食べてもろもろ済ませて寝るだけだ、とお気楽に帰宅したのだが、やらなければいけないことが目の前に積まれていた。

 玄関は、生活環境によって随分差がある。差の中でも簡単な差は、広さだ。この玄関は狭い。25㎝の靴をぴったり20足並べたら埋まる程度の面積だ。大きな段ボールが積まれた玄関は、足の踏み場がないよりも酷く、身を捩りながら爪先立ちで靴を脱ぎ、大股でスリッパへ無理やり足を入れるしかない。これをやって退けること2日目である。今日これを片付けるのか、とドアを開けて数秒で決めた途端に腰が重たくなった。しかし、決めたのだ。お弁当の手提げをテーブルに置き、トートバッグは積ん読の上に乗せ、いよいよ半袖の季節だが腕まくりをするようなジェスチャーをして奮い立たせた。

 「ケーキ、入刀ー。」もとい、
 「段ボール、入刀ー。」である。手に持つのはカッターナイフである。

 さて、購入した素敵なゴミ箱が包まれている段ボールは、どんな梱包か。これが、非常に開けづらい。商品に傷を付けず、且つ荷物サイズは最小サイズにしたい、という店舗スタッフの心の声がペタペタペタペタとしっかりと貼られた透明粘着テープに書いてあるようだ。粘着テープアレルギーになりそうだ!と、ジェルネイルにくっついてしまうテープの粘着剤に悲鳴をあげそうになる。ゴミ箱という商品のジャストサイズ段ボールが店舗に無かったからだろう、二つの段ボールを組み合わせて手作りされていたものだから、通常のテーピング箇所よりも不思議と多く、そして何故だか二重貼りされており、カッターナイフの刃先もきっと戸惑ったに違いない。カッターナイフで切れ目をつけて、爪先でテープを捲り、一気に剥がす。透明粘着テープは、一気に剥がれないのだ。上手く9割ほど剥がれる時もあれば、ほんの5ミリほどしか爪でつまめておらず、そのまま5ミリの幅狭さを貫き通し、しかも途中で切れてしまう時もある。その度に爪先でカリカリ、カリカリ、とテープが上手く捲れるまでリトライする。

 「本当に嫌い!荷解き!」

換気扇に向かって呟き、またリトライ。途中で、夕食を食べる前にこの作業を始めてしまったことを後悔しそうになる。そんな弱気にツッコミをいれながら、リトライ。もし、先に夕食のお弁当を食べていたら、きっとそのままゆったりと食後のコーヒーをいただいて、ウトウトと寝てしまうだろう。そして、目が覚める深夜2時ごろに罪悪感に襲われながらも、二度寝するのだろう。そんなウダウダした劇狭玄関段ボール放置生活は、何かしら良くない!と己を諭し、ベトベトの爪先とくっついてしまうテープやビニール紐をなんとか操り、段ボール廃棄の準備を完了し、ゴミ袋には緩衝材やテープゴミを一纏めにした。ウォーターサーバーのボトル交換も、苦手な作業だが意を決して行った。水は命だから。ボトルは重い。重いし、ペコペコと変形する柔らかめのペットボトル素材なのだ。そのボトルを胸元辺りまで持ち上げてサーバーにセットする。ボトルを持ち上げてサーバーにセットする際に、相当大きな音が立つので、早い時刻にしなければ隣のお部屋に住んでいる方に迷惑がかかる。ペコペコペコペコペコ!と雷のような音が出るのだ。無事にウォーターサーバーのボトル交換も済ませ、荷解きゴミを集積所に出しに行った。

 自室のドアの前に立ち、軽くなったように感じるドアを開けると玄関にはいつもの踏み場が戻り、ウォーターサーバーの水も補充され、夕食の落ち着いた時間がやってきた。荷解きを始めてから1時間も経っていた。力仕事、粘着テープはがし、段ボールをビニール紐で括ること、それが特に苦手と分かった。これからは、ちょっと大きなものを買っても、なるべく手で持って帰ろうと思う。その方がすぐに使えるし、エコだし、力をそこまで使わない。

 木曜日、職場でパソコンのキーボードを叩く指が震えている。元々左右とも薬指は力が入らず、ミスタイプすることが多いのだが、それどころではない。薬指の第一関節がふにゃふにゃである。荷解きは翌日の仕事に支障をきたすことがわかった。

 荷解きには注意、なるべく荷解きにならないような生活を。そんな家訓のようなものを心に中で呟いて、今後に活かすか活かさないのか。

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