はじめての政治哲学 「正しさ」をめぐる23の問い 第3章 11 社会主義
お金か平等か
これは資本主義社会か社会主義社会かと言い換えることができる。
社会主義の誤算
社会主義の問題点は、いくら頑張っても平等だということになると、人のやる気がなくなってしまうことである。だからといって、社会主義はもはや何の価値もない過去の遺物になったわけではない。
空想的社会主義
マルクス以前に「空想的社会主義」と呼ばれる思想があった。正確には「初期社会主義」といわれるこの思想の理論家として、
フランスの思想家クロード・H・サン=シモン(1760〜1825)
フランスの思想家フランソワ・マリー・C・フーリエ(1772〜1837)
イギリスの思想家ロバート・オーウェン(1771〜1858)
といった人物を挙げることができる。
サン=シモン
あらゆる社会制度が最も貧しい階級の境遇改善を目的としなければいけない
出世による特権は例外なく廃止されなければならない
労働に応じた報酬を与えるべき
フーリエ
「ファランジュ」
農業を中心とした生産と消費の共同体組織
まず生きるのに必要な最小限度の富が分配され、次に余剰生産分が労働量や出資額、能力に応じて分配される。
オーウェン
「一致と協同の村」
一つの村を一つの家族とみなす、理想の共同体
彼の理想は、自分の幸福と他者の幸福が一致する社会の実現にあった。
科学的社会主義
初期社会主義を批判したのがマルクスとその同志であるフリードリヒ・エンゲルス(1820〜1895)であった。その上で彼らは、自らの主張する社会主義を「科学的社会主義」と呼んだ。つまり、科学的社会主義が「マルクス主義」なのである。
マルクス主義
人間の疎外
人間にとって労働こそが本質的なものであって、能力を発揮する機会であるにもかかわらず、私有財産制のもとでは、労働者はまず労働生産物から疎外され、ひいては人間そのものから疎外されるまでに至る。
「唯物史観」
人間は社会的生産において、自己の意思から独立した一定の物質的生産力及びその発展に対応する生産諸関係を結ぶ。これら生産手段や生産活動といった経済的な下部構造が、法や政治のシステムといった上部構造を規定する。
そして、生産力が生産性の向上によって生産関係にそぐわなくなったとき、その矛盾を原動力として、歴史は次の段階へと進展する。
なぜ資本主義が矛盾を抱え崩壊することになるのか
「労働価値説」
商品の価値は、生産に費やされた労働の量=労働時間によって決定される。
「剰余価値の生産」
資本家は設備や原材料を購入して、自らの整えた生産条件のもと労働者を雇用して生産活動を行うわけだが
、その場合の資本家の利潤は、労働者に支払う賃金を超えた剰余価値の部分になる。ここに資本家が労働者を搾取する土壌が生じる。
したがって、もし資本家が利潤を拡大したいと思えば、
労働時間を延長する=「絶対的剰余価値の生産」
労働の生産性を高める=「相対的剰余価値の生産」
のいずれかによればいい。
資本主義の矛盾
機械化による生産性向上によってモノは大量に生産される一方で、機械による置き換えでの失業によって消費は伸びないという矛盾が生じる。この生産と消費の矛盾、供給と需要のアンバランスが、まさに資本主義の矛盾に他ならない。
アナリティカル・マルキシズム
分析的マルクス主義
分析的マルクス主義は、マルクス主義の再定式化を試みようとするものである。いわばその基本目標は、リベラルの正義論では不十分なことを批判して、その代替案を提供することだといえる。キムリッカによると、これには二つの潮流がある。
2つの潮流
正義の理念それ自体に反対する潮流。
この立場は、対立を調停する正義の役割自体は認めるものの、逆に対立を引き起こす傾向もあると考える。共産主義はそうした対立そのものを克服するというわけである。正義を重視するものの、それが生産手段の私的所有と両立するというリベラルの主張を退けようとする潮流。
私有財産制は疎外をもたらしたり、搾取をもたらしたりと、本質的に不正な賃労働関係を発生させるから、私有財産制を廃止しない限り正義を実現できないと考える。
「ポスト社会主義」
社会主義は滅びるどころか、ますます進化しつつあるようである。おそらくそれは、人間が平等だけで生きていけないのは確かだとしても、平等を抜きにして生きていくこともまたできない存在であることの証左といえるではないか?とりわけ抑圧された状態にある人にとって、それは切実な問題である。→「多文化主義」
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