確率思考の戦略論 3.2 プレファレンスについて

プレファレンスを決定しているのは主に、

  • ブランド・エクイティー

  • 製品パフォーマンス

  • 価格

の3つであると述べました。
 
戦略をつくる上でもっとも重要になるプレファレンスの要素であるそれら3つに対して、私の基本的な考え方を述べておきます。

1)ブランド・エクイティー

ブランド・エクイティーは全てに優先してプレファレンスを支配する最重要な要素です。

ブランド・エクイティーは競合との相対で決まってしまいます。
 
自社ブランドの消費者の頭の中における競合も含めた「ポジショニング」を知るところから始めなくてはなりません。

経年での比較ができないと意味がないので、コロコロと調査手法やエクイティーの表現を変えてしまわないように注意

一度所有した強固なエクイティーはなかなか陥落しません。

そこでよくやるのは「差別化」です。

また、核となっているエクイティーに付加要素を与えてより優れた便益に見せたりするのもよくやる手段です。

どのような場合でも、重要なのは、差別化は市場全体から自社への「M」を増やすためにやっているという目的意識です。

ポジショニングやその差別化は、「M」を増やすためなのです。

2)製品パフォーマンス

製品機能としてのパフォーマンスは重要ですが、ブランドへのプレファレンスに占める重要性はカテゴリーによって大きく異なります。
 
製品の機能性が重視されるカテゴリーにおいては、製品パフォーマンスの占めるプレファレンスへの影響は絶大です。

そのようなカテゴリーでは、製品パフォーマンスによって一度満足させることができると、エボークト・セットに入りやすいのです。
 
その上、消費者は失敗したくないので、一度信頼したブランドをスイッチすることが比較的少ないのです。

その逆の位置にあるカテゴリーは製品パフォーマンスがプレファレンスに与えている影響は小さくなるのです。
 
つまり、機能性が重視されておらず、消費者にとって差がわかりにくいカテゴリーです。

機能性をどこまで消費者が重視しているかという点の他にも、製品パフォーマンスの重要性の決定的な分かれ道となる観点があります。
 
それは、リピートビジネスなのか、それともトライアルビジネスなのかという判断です。

リピートビジネスとは、中長期の売上の大半を再購入(Repeat Purchase)から得るビジネスモデルのことです。
 
もう一度消費者に買ってもらうために、使用体験の満足をドライブする製品パフォーマンスは決定的に重要なのです。 

トライアルビジネスは基本的に中長期の売上の大半をトライアル(初回購入)に依存しているビジネスモデルのことです。
 
この場合は製品パフォーマンスは重要ではありません。

最後に製品パフォーマンスの高低や優劣をどう判断するのかについて述べます。
 
結論から言うと、これは「消費者が判断するべきもの」です。

消費者に実感できて評価される製品パフォーマンスでなければ、プレファレンスを上げることは1ミリもありませんから注意しましょう。

3)価格

まず、大前提となる認識として、価格を最終的に決めているのは消費者であるということです。

特殊なラグジュアリー・カテゴリーは例外として、価格を上げることはプレファレンスと反比例します。
 
プライシングは、十分に目的の売上を達成できるかどうかに注意して設定しなくてはなりません。

しかし著者は、中長期の観点でブランディングを考えた場合、プレミアム・プライシングは多くの戦局において正しいと考えています。

「プレミアムプライシングは正しい」。
ダーク・ヤーガー

その一番の根拠は、消費者を継続的に喜ばすために必要な原資を獲得するためには、プレミアム・プライシングでないと難しいということです。

彼は「消費者と企業は、プレミアム・プライシングや値上げによる果実を共有している」と教えてくれたのです。

誤解を恐れずに言えば、適切な利益を乗せて儲けることは正しいのです。

技術革新もなく、ブランディングによる差別化もできず、プレファレンスを上げる方法が価格の値下げしか思いつけない市場がどうなるか?
 
価格競争が始まって、その連鎖が業界価値をどんどん破壊していきます。

我々マーケターの仕事は、ブランディングによってエクイティーを強化し、ブランド価値を大幅に高めて、その結果として中長期に投資可能な水準の価格を消費者からいただくことを可能にすることです。

Case4 業界の価格革新に挑戦!

2010年に私がUSJに着任したとき、会社の成長の伸び代として着眼した有力な柱の1つに、テーマパークチケットの値上げがありました。
 
日本のテーマパークのチケット価格は、世界水準と比べてあまりにも安かったからです。

日本人の購買力から考えたら、本来テーマパークのチケットは1万円以上の価格で当然なのに、なぜかその半値でずっと売られていたということです。

品質は一番高い、コストも一番高い、でも価格は半額……。

一体これはどうなっているのだろう? 

これは正直に指摘して申し訳ありませんが、日本のパーク業界のガリバーである東京ディズニーリゾートが長年にわたって低い価格設定で業界の天井を極端に低く抑えてきたからです。

チケット価格は低い設定でも、東京ディズニーリゾートは全く困らなかったのです。

しかし、そんな規模を持たない他の全ての施設にとってみれば、その低い価格天井はあまりにも厳しいものだったのです。

競争という意味でも業界の活性化という意味でも、様々な規模や価格帯のテーマパークや遊園地のオプションから、消費者が選べた方が良いに決まっています。

本来は、業界の圧倒的なガリバーであり盟主であるはずの東京ディズニーリゾートが、世界水準に向けて価格の天井を上げていく責任があると思うのですが、USJに入社した当時に分析したTDRの歴史的な動向を考えるに、私にはどうしても彼らが自分達からそういう動きをするとは思えなかったのです。

そこで私は覚悟したのです。「TDRが動かないのであれば、USJから動くことで、価格にまつわる業界ルールを動かしてみせる」と。

彼らには業界の盟主としての誇りがあるはずなので、USJが彼らよりも高いチケット価格でプレイしていることはきっと気になるはず、つまり必ず彼らはついてきてくれると私は確信していました。

日本の業界価値の向上と、日本の消費者の選択肢を充実させるために、TDRやUSJのようなバトルシップ・テーマパークの価格は世界水準並みになるべきだと、昔も今も私は信じています。

価格は最終的には消費者が決めるものですから、先にブランド価値を高めることで初めて値上げは実行可能になります。


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