TOOLs and WEAPONs 第2章 テクノロジーと治安

マイクロソフト CEO サティア・ナデラ

つまりマイクロソフトは人々の所有物の管理人であってデータ所有者ではない。

これを出発点にして組み立てたチームは、プライバシー、セキュリティ、コンプライアンス、透明性の四原則を策定し、後にわれわれが「クラウド・コミットメント」(クラウドに関する約束)と名付けた。

一つひとつの原則に、詳細な説明を加え、トレーニングも実施した。


2013年、マイクロソフトは企業や政府機関など法人顧客のデータに対する開示命令がマイクロソフトに届いた場合には、当該顧客に事前に通知すると発表した。
 
やがて実際にFBIからマイクロソフトに国家安全保障書簡(国家安全保障上の調査のために発行される情報請求書簡)が届いた。

ところが2016年1月、別の地区の連邦検察局検事補(連邦検察官)が同意せず、法人顧客所有のデータに対する正式な捜査令状をマイクロソフトに送ってきた。

だが、このときは連邦検察官が一歩も引かず、裁判で決着をつけることになった。

私はヨーロッパを旅行中だったが、訴訟案件などを担当するデイビッド・ハワードから早朝に届いたメールで起こされた。

その凄腕デイビッドから届いたメールによれば、このときばかりは事態を楽観視できないという。

その後、電話会議を開き、この件で政府に屈服したくないという思いを訴訟担当チームに伝えた。

そこで私は、敗訴となっても罰金が2000万ドル以下なら、精神的な勝利と考えようと訴訟担当チームに語りかけた。

結局敗訴したが、何よりも重要なのは、われわれが約束を守り抜くという姿勢である。

デイビッドの見事な作戦を基に、われわれはいわゆる「宣言的判決」(法律的にはっきりしない事項を解決する司法判断の制度)を目指すことにした。

  • 政府が顧客のメールを押収しようとしていることを当該顧客に通知するのは憲法修正第一条で保障されている権利であり、箝口令の過度な使用は、この権利を侵害するものだという点を主張した。

  • また、憲法修正第四条では人々は不当な捜索・押収から保護されているにもかかわらず、こうした箝口令はこの権利を侵害しているとも指摘した。

装置を被疑者の自動車に装着する「物理的な侵入」とする意見が多数だったが、ソニア・ソトマイヨール判事は、21世紀のこの時代には、法執行当局が必ずしも物理的に侵入しなくても対象者の居場所を追跡できるとした。

だが、今回、ソトマイヨール判事は、プライバシーとは情報を共有する際、その情報を誰が見るのか、そしてどのように使用されるのかを決定する権利でもあると指摘した。

携帯電話の捜索という概念は、個人が物理的に所有するものをはるかに超えたところにまで及ぶという見解を連邦最高裁が初めて認めたのである。

2016年4月14日、デイビッドのプランを実行に移し、我々は提訴に踏み切った。
 
この訴訟はジェームズ・ロバート判事の担当となった。

政府側は、裁判が始まってもいないうちから棄却申し立てという反撃に打って出た。

2週間後、ロバート判事はこの訴訟を進める決定を下した。

司法省が新しい方針を発表した。

  • 箝口令を発布するときには明確な期限を設ける

  • 企業に対する捜索令状の場合にはクラウド事業者に行く前にまず当該企業を捜索する手順を検察に指導する

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