どうして私はノートを始めるのか

 初めまして、ホリプロ所属のアナウンサーの八木美佐子です。自覚したのはいつだったでしょうか。気づいた時には二次元キャラクターにときめいて生きていました。その感情は偶発的なのか、意図的なのか。前触れなくやってくるのが恋だとしたら、萌えの気持ちはどこから沸き起こるのでしょうね。
 自分の存在が何なのか分からずに震えた、あの15の夜。どんなに辛いことがあっても盗んだバイクで走り出さなかったのは、間違いなくそのキャラクター達や作品のお陰だと思っています。少しの太陽の光と、主に美少女キャラに照らされながら暮らしてきました。そんなオタクの独り言を残そうと思います。
 私はアニメや漫画が大好きです。本当は細々とした自己紹介ではなく、「アニメや漫画を愛し!アニメや漫画に愛される者!」と超絶怒涛に言い切るのが夢です。その為にホリプロの門を叩いて今に至ります。例に挙げておきながらその芸人さんとは事務所が違うんですよね、それはさておき。
 幼少期からずっとアニメばかり観てきました。漫画ばかり読んできました。でも証拠がないじゃんって思ったんですね。さすがに証拠が無ければホームズもコナンも解決できないと気付きました。この想いは永遠に一人相撲です。好きの証をここに残していくのもいいのかな、とノートを始めました。文章を書くのも好きなので、暫く私の気が済むまでお付き合いください。

 私の趣味趣向を決定付けたのは何か。記憶を遡ると幼稚園に通っている時にNHKで「カードキャプターさくら」が始まりました。1998年から2000年にかけて放送された後、2018年にも新たに続編がアニメ化されました。今年で原作は25周年を迎えている大長寿作品です。多分ここまで離脱しないでくださった方はタイトルは分かる気がします。ざっくり言うと、主人公さくらが大魔術師の遺したカードを封印する為、魔法少女として奮闘して人としても成長していく過程が描かれています。この説明だと、「あ、よくある女児向けの作品ね」となってしまうのですが、この作品はいわゆる「大きなお友達」からも支持が厚いのはもうご存知かもしれません。
 まず、主人公さくらちゃんがとても可愛いです。素直で頑張り屋の天真爛漫な小学4年生の女の子です。周りを大切にしながら自分の運命に立ち向かう、誰もが応援したくなる主人公です。なにより、高校生の兄が彼女をからかった時に「さくら怪獣じゃないもん!」と頬を膨らませる姿をまずは見て欲しいのです。どうですか!これが妹萌え、破壊力抜群の圧倒的な妹力です!
 「ほええ」「はにゃ〜ん」と現実世界に生きる私たちが日頃使うタイミングすら掴めないこの擬音を彼女は口癖として操ります。これもさくらの可愛さが溢れる瞬間なので見逃さないでください。令和にはたくさんの萌えキャラがいますが、当時は多くのオタクの生殺与奪の権を握っていたと思います。時が戦国時代ならば「はにゃ〜ん」一つで天下統一しているはずです。武将が萌え伏す可愛いさがそこにあった。
魔法少女モノと言えばコスチュームを身につけるお約束の変身シーンが見どころの1つですが、この作品にはありません。その代わりに友達がハンドメイドでコスチュームを毎回作ってくれるので、戦闘ごとに洋服が違います。しかもプロのデザイナーが作る様なテーマ性があり、実用的だけではなく見た目も凝っています。もはやパリコレのランウェイを歩けるレベルです。なので毎回新しい「可愛い」を魅せてくれるわけです。これには思わず感謝の五体投地ですわ。

 そして、この作品は20年以上前のアニメにも関わらず、そこには現代に通用する複雑な愛憎関係があります。さくらの親友、知世ちゃんは彼女の為にコスチュームを作ったり、戦う姿をカメラに納めながら見守ったり、献身的にさくらを近くで支えます。その原動力はさくらの事を誰よりも大切に想う心からです。最近はアニメ界で市民権を得たと言える(言えなかったらごめんなさい)「女性が女性に好意を寄せる」百合。
 知世はさくらに特別な気持ち向けながらも、彼女が誰と付き合っても応援する姿勢で彼女の幸せを一番近くで願っているのです。恋愛に関して私は未熟者なので憶測ですが、それってもはや恋ではなく愛ですよね。小4に完敗です、2人の瞳に乾杯。
ちなみに知世の母は、故人のさくらの母に好意を寄せていました。親子二代で百合。ただ、知世が尽くす愛で描かれる一方、知世の母は独占的に描かれます。自分の向ける気持ちが彼女から真っ直ぐに返ってこなかった事について、「私が欲しかった『好き』じゃなかったわ」と寂しさを見せるのです。これが少女漫画誌「なかよし」で展開され、NHKで放送されるわけですよ。すごい。
さくらの憧れの人は、兄の友達の雪兎(ゆきと)さん。恋のライバルは、香港からやってきた転校生の男の子、小狼(シャオラン)くんです。この物語では当たり前に性別は関係ありません。時代の先を行くCLAMP先生カッコいい。
 ちなみにさくらは勇気を出して雪兎さんに告白するのですが、まさかの玉砕。ヒロイン、しっかり振られます。そして、雪兎さんの一番大切な人はお兄ちゃんだと気づいて現実を受け入れるのです…。なんて出来た小4なのでしょうか。何度も言いますが彼女たちはアラサーの私より大人なのです。当時NHKは放送することによって自由・平等・友愛というアイデンティティを確立する思想と萌えを日本中に広めました。これが、1998年「カードキャプターさくら革命」や…!

 突然、私の話を入れますね。就活で放送局を受けていく中、実はNHKの総合職も視野に入れていました。さすが狭き門でして、エントリーシートもたくさんの項目がありました。どうしても埋めきれないスペースは、ええい、ままよ!でカードキャプターさくらの放送への感謝を綴った所、書類が通っていました。思わぬ結果に、やったー!と喜んだのも束の間、次に襲うのは圧倒的な不安でした。だったら書くなと今では思います。どうなったのかは、入社できていない事で察してください
でも、エントリーシートに書いてしまう位、私にとってこの作品はバイブルで元気をくれる作品であり、年齢や性別に囚われない愛の多様性を教えてくれた教科書です。

 中学生のいわゆる中二病と言われる時期には、ニコニコ動画が爆発的な人気を誇り、京都アニメーションの「涼宮ハルヒの憂鬱」が放送されました。ニコ動では、エンディングで自然に踊るSOS団に対して「こいつ、動くぞ!」と、職人による弾幕コメントが流れていたのを覚えています。ガンダムのアムロ・レイが、コックピッドを覗き込んだ際に呟く言葉です。私も感動しながら書き込んでいました。そこからSNSの発展と共に爆発的に増えていくアニメや漫画コンテンツ。私はオタクとしてのレールが引かれている世代であり、それをしっかりと踏みしめてきました。
 でも、当時は漠然とあったオタクへのネガティブなイメージにはめ込まれるのが嫌でした。
 なのでアニソンだらけのMD(もうJKには伝わらないのかな)や漫画が並ぶ本棚を見られるのは、もはや恥部を見られる事に値していました。    もう、のび太さんのエッチ!心の中のしずかちゃんが叫びます。故に私の根っこは自己肯定感低めのオタクです。なので自己紹介の際にアナウンサーと名乗れば、どこか自分でも社会に少し溶け込めている気がして、ついつい黄門様の印籠のように振りかざして生きていたんですよね。
 それが一転、どうでしょうか。近年は、レコーダーがすぐにパンパンになる程アニメが放送されて、漫画は誌面だけではなくネットでも連載があり、たくさんの面白い作品で溢れている毎日です。そして何より、オタクに優しい世界になりました。優しくしてくれてありがとうございます
 当時恥部と思って一生懸命おぼんで隠していたものは、もう全て隈なく見て頂きたいと文章を綴っています。
 でも、好きなものを好きと言えるのは楽しいですね。溜め込んだ情熱をみなさんにお伝えできたら嬉しいです。

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