雑記「結婚指輪に傷が増えていく話と、両親の話」
結婚指輪に細かな傷が増えていく。
仕事上、金属材料に触れることが多いが、そのせいだろうか。
あんなにつるつるピカピカだったのに、もう傷だらけである。まだはめて二か月程度しか経っていないはずなのに。
なんだか悲しいなぁと思って、両親に相談したら、「指輪なんてそんなもんだ」と教えてくれた。
父がずっとはめている指輪は、結婚指輪と、亡くなった祖母の指輪の二つだが、どちらも見事に傷だらけであった。
父の指輪を見て、こうして傷を増やしていくことも悪いことではなさそうだ、と感じた。
「ちなみに、わたしのはピカピカだよ」母はけらけらとそう笑った。
母は手荒れがひどい体質で、指輪をはめられないため、結婚以来大事にしまってあるそうだ。
「昔、あんたが小さかったころ」母はコーヒーを飲みながら語りだした。「指輪無くしちゃったことがあって」
「あったなぁ。そんなこと」父も思い出したのか笑った。
「小さいあんたが指輪の入ってる箱を空けて、指輪を触ってたのは見たんだけど、次に箱をあけたときには、中に指輪が入ってなくて」
「どうしたの?」私は腰を上げて聞いた。
指輪を無くしたなんて言ったら、当時の父は激怒するだろう。今は丸くなってきたが、我が家の父は非常に厳しかったのだ。
「うわー、この子どっかにやっちゃったんだと思って。どこ探してもないし」
「で?」
「でね、指輪の入ってる箱、もう一回空けたの。そしたら、箱の中からカラカラ音がするのよ」
「最初から無くしてなかったの?」
「そう!」
指輪の箱は二重になっているようだ。台座の部分から指輪を押し込むと、箱の内部へ中へ落ちる構造になっている。
「で台座のところを開けて、中から出したの。もう生きた心地がしなかったわ」
「今は?」
「大事にしまってあるよ!」母は再び大笑いした。
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