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上の階のネオンカラー

上の階の住人が、洗濯物を干している。
Tシャツやタオル、それらの中に、ネオンカラーのピンクとイエローが1つずつ。
あれは、パンティーだ。
パンティーを堂々と干している家を、初めて見た。干してはいけないものと認識していた。自分の下着が誰かに見られるということはどうでもいいのだが、そういう見えないルールがあるものだと思っていた。
確かに干してある。

雨の日も干してあった。
ということはあれは、本当は洗濯物ではないのかもしれない。
鳥避けや、モールス信号のような暗号だったりするのかもしれない。
パンティーの形をしているから、「パンティーが干してある」なんて思うわけで、もっと事実を研ぎ澄まさせて見たとしたら、ネオンカラーの布である。ただの布。
それに対して、下から見上げて「パンティーだパンティーだ」と騒いでいる私は、なんて低俗なんだ。心が小2男子で止まっているのではないか。小2男子だったことは1度もないのに。
手に取ってじっくり見たわけではないので、パンティーの形に見えるが実は全然違うものなのかもしれない。あれがパンティーとして存在しているものではなかったら、どうおとしまえをつけるつもりなのか。
顔を合わせたこともない他人に、こんなところでこんなことを書かれている彼らの身にもなってほしい。

また別の日、朝から雨なのに、干してあった。
降るなんて思いもしなかったという言い訳はできなくなる。なぜ干しているのだ。間違いなく朝から雨だった。
驚いたのは、下の階の部屋も洗濯物を干していたのだ。なぜ。朝から降ってたよ、絶対。
これはもう暗号説が有力だ。そうじゃないと、上の部屋も下の部屋もだなんて、ありえない。だとしたら我が家は仲間外れだ。暗号を教えてもらっていない。知らないことで何かあったらどうしてくれるのだ。心がザワザワする。雨の中で洗濯物を干したくはないが、仲間外れだなんてやめてくれ。寂しい。ザワザワザワザワ…。

川が流れているような音がする程の大雨の日はさすがに干していなかった。良かった。
数日後、また上の階のベランダには鮮やかな布が飾られていた。
彼らの日々は続くし、私の日々も続いていくのだ。

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