がらくた少女カバー横長

目先のことにとらわれ、道を見失う

『がらくた少女と人喰い煙突』には、《赤痣病》という架空の疾患が登場する。作品の舞台となる《狗島》は、《赤痣病》の患者のかつての隔離施設が建てられた島なのだが、これはハンセン病の国立療養所である邑久光明園が建てられた、岡山県の長島をモデルにしている。作品の構想を練る上で、自分は長島に取材に行った。ハンセン病について書かれた本を読み、その歴史を学んだ。

作品の中で、ハンセン病に対する差別や、国の間違った政策によって苦しめられた人達について描くことは、最初から決めていた。それは物語の重要なテーマだった。だからこそ、多くの人に読んでもらいたいという思いがあった。

しかし、担当さんの出版社では差別についての描写の規定が厳しく、たとえ差別的な意図があって書いたものでなくても、ハンセン病をモデルとした疾患を扱いながら、それをエンターテインメントとして描くことはアウトなのだそうだ。

「他社では可能なところもあるかもしれないが、うちではこれは出版できない」と、担当さんは言った。そして自分に、「これから、どうしたいですか」と尋ねた。「矢樹さんがうちで本を出すとしたら、別の作品を考えてもらう必要があります」

自分は『がらくた少女と人喰い煙突』を世に出したかった。しかし作家として再デビューすることも、とても重要だと考えていた。

ヒット作を何作も出している編集さんに担当してもらい、大きな出版社から本を出すチャンスを逃すことはできない。ひとまず『がらくた少女と人喰い煙突』のことは置いておき、とにかく次の本を出そう。それが売れて、別の出版社からも声が掛かるようになった時に、『がらくた少女と人喰い煙突』を出してもらえるところを探せばいい。

その時の自分は、そう考え、新しい作品を書くことを決めた。しかし、自分が選んだ道は、結果的には目的地に辿り着くことのない、とても遠回りな道だった。

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