無知と傲慢が、すべての始まりでした
2012年8月、自分は『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』という長編ミステリーで、一応の作家デビューを果たした。2011年に第10回「このミステリーがすごい!」大賞に応募した小説が、受賞には至らなかったが隠し玉に選ばれ、宝島社文庫として出版されたのだ。しかしこの作品は、残念ながら売れなかった。
売れなかった作品の続編を出すことは、難しい。だが、それが分かっていなかった自分は、張り切って続編のプロットを作った。そしてそれを担当さんに送りつけた。10月のことだった。
実はプロットを読んでもらった時点では、これを続編として書いても良い、というお返事をいただいていた。しかし、出版の条件として提示された数字に、自分は納得がいかなかった。売れない新人の作家には妥当な数字だったのだろうが、自分は、自分の立場をわきまえない種類の人間だった。
担当さんに「その数字では出版したくないので、他のところで出します」と宣言し、続編を他社で出すために、出版契約書の一部を修正してもらった。無知で傲慢な自分は、「他のところで出す」ことが、それほど難しいことだとは思っていなかった。続編のプロットのアイデアには自信があったし、すでにデビュー済みの作家なのだから、他の出版社に営業をかけることができると考えていたのだ。漫画原作者として十年近く仕事をしてきて、営業をして作品を世に出すのは、普通のことだった。小説の世界でも、それは同じだと思っていた。
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