がらくた少女カバー横長

最初の打ち合わせまでの道のり

この作品は、最初に作ったプロットの段階では、『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』の続編にするつもりだった。前作と同じく《矢樹純》と《桜木静流》を主要登場人物としたプロットを書き、それに担当さんのOKが出た時点で、本文を書き始めていた。その後、2013年2月中旬に宝島社から見積もりを出してもらい、その数字では出版しないと決めた時には、第一章までを書き上げていた。

しかし、他社で出してもらうのなら、あまり続編を意識しない方がいいだろう。前作が売れなかった理由についてもあれこれ考えていた自分は、「主人公は中年ではなく、可愛い女の子にしよう」と決めた。ここでプロットを一から練り直し、強迫性貯蔵症の少女《楠陶子》が誕生した。タイトルも『狗島の人喰い煙突』という地味なものから、『がらくた少女と人喰い煙突』へと変わった。

まだどこで出してもらうとも決まっていなかったが、漫画原作の仕事の合間に、どんどん原稿を書き進めた。『がらくた少女と人喰い煙突』は、キャラクターも、メインのトリックも最後の仕掛けも、「早く書いて世に出して、たくさんの人に読んで欲しい」と思える、大好きな作品だった。

だが、自分はその後の《営業》で、小説を「世に出す」ことは、漫画とは全く手順が異なるものだと思い知ることになる。

漫画の営業では、掲載誌や単行本を名刺代わりに、出版社に企画の持ち込みをすることができる。自分も、同業の友達も、そうやって新しい仕事を取ったり、または断られたりしてきた。しかし、小説の世界では、デビュー済みの作家であっても、企画の持ち込みをすることが出来なかった。自分は大手の二社にデビュー済みの作家であることを伝え、企画の持ち込みを申し込んだが、どちらも総合窓口から出版部に繋いでもらうことすらできず、「プロであっても企画の持ち込みは一切受け付けていません」と門前払いされた。

ネットの情報で、「一度デビューしてしまえば企画の持ち込みも可能」という経験談を読んでいたのだが、出版社によって対応が異なるのだろうか。それともネットの情報が古いものだったのだろうか。一応、漫画原作者として十年近く仕事を続けてきた身としては、この「門前払い」が精神的にかなり堪えた。何度もこんな思いをするのは心を病みそうだと判断し、漫画原作者として十年近く仕事を続けてきた者の、小狡い知恵を使うことにした。以前お世話になった漫画の編集さんを通じて、小説の編集さんを紹介してもらうことを考えたのだ。

漫画の編集さんが必ずしも小説の編集さんと知り合いということはなく、ここでもかなり気まずい思いをしながら、以前の担当さんなどにお願いのメールや電話をして、ようやく一人だけ、紹介してくれるという編集さんに巡り会えた。用意していた『がらくた少女と人喰い煙突』のプロット、第一章の本文と前作の『Sのための覚え書き…』を送り、返事を待った。

話を繋いでもらった小説の編集さんはかなり多忙な人で、返事をもらえるまで、何か月も待つことになった。その間、自分は『がらくた少女…』の原稿を書き進め、さらにホラー小説で再デビューしようと、第8回『幽』怪談文学賞に短編を書いて送ったりしていた(この「べらの社」という作品は最終候補には残ったが受賞はしなかった)

小説の編集さんから、ついに会ってもらえると連絡が来たのは、2013年の7月下旬のことだった。この時には『がらくた少女…』は第四章(350枚)までが完成していた。当時は月刊チャンピオンでの『禁忌』とビッグコミックオリジナル増刊の『あいの結婚相談所』の二本の連載を抱えていたので、ずいぶん頑張って書いたものだと思う。

打ち合わせ当日、待ち合わせ場所の喫茶店にやってきた編集さんは、自分も読んでいるような何本ものヒット作を出しておられる、いかにも「力のある」編集さんだった。そんな編集さんに『がらくた少女と人喰い煙突』の出版をお願いできるのだ、と紹介してくれた編集さんに心から感謝したが、そう簡単には、話は進まないのだった。

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