がらくた少女カバー横長

本当に、色々と、救われました

ここで打ち明けておくが、自分は2015年の6月から、うつ病を患っている。数年前に一度発病して寛解したのだが、4月に夫が入院するなど精神的に負荷が掛かることがあり、再発してしまったのだ。

うつ病なので、ただでさえ気持ちが沈みやすいところに、落ち込むようなことが起きると、本当に体が動かなくなる。どん底から這い上がりかけていた3月末、そんな自分を叩き落とすような出来事があった。

ある出版社から、ホラー漫画の新連載を依頼され、大筋のプロットを提出して編集長のOKをもらったのだが、それから一年半、第一話のネームが通らなかった。十数回のリテイクを繰り返し、やっと第二話のネームに着手したのだが、それも何度直しても通らない。担当さんの修正指示は、何回も繰り返すうちに最初と言っていることが変わってきたり、または修正前の状態にもう一度戻すように言われたりと、かなり混沌とした状況だった。

それでもどうにか担当さんの指示に従い修正を続けてきたのだが、ある時、大幅に修正したネームについて、「編集長が、どこを直したのか分からないと言っています」という返信がきた。それはつまり、まともに読んでもらえていないということだ。

二年間取り組んできた企画で、しかも向こうから描いて欲しいと依頼されたのに、こういう扱いを受けている。自分は作家として無価値なのだと、これまでの仕事を全て否定された気がした。

「消えてしまいたい」という気持ちと二日間戦い、もう無理だとメンタルクリニックを受診して、一時的に薬を増やしてもらった。ようやく動けるようになってきた4月の初め、この状況を抜け出すために、何か前向きなことをしなければと思った。その時、自分がしたのは「作家のエージェント会社『アップルシード・エージェンシー』に『がらくた少女と人喰い煙突』を出版したいとメールを出すこと」だった。

メールを出したあと、前回メールを送った出版エージェント会社からの門前払いのことを思い出し、強いうつ発作が襲ってきた。それをやり過ごすために、夫に子供達を頼んで、夕方近くに散歩に出た。薄暗い公園の桜並木の下を歩いたり、立ち止まったりしながら消えたい気持ちが治まるのを待って、家に帰ると、早くも『アップルシード・エージェンシー』からメールの返信が来ていた。「読んで判断したいので作品のデータを送って欲しい。前作の『Sのための覚え書き…』はこちらで購入します」とのことだった。さっきまでの重苦しい気分が消え、自分はすぐに作品のデータをメールで送った。

翌日、『アップルシード・エージェンシー』から再びメールが届いた。『Sのための覚え書き…』と『がらくた少女と人喰い煙突』のそれぞれの売れ数を教えて欲しい、という内容で、調べて返信すると、すぐに「個人出版で1000ダウンロード超えは素晴らしいですね」と返事をもらった。褒められたことが、とても嬉しかった。その日から、急に体が動くようになった。家事を普通にこなせること、仕事ができることが、ありがたかった。

『アップルシード・エージェンシー』のエージェントさんとは、4月の下旬に顔を合わせた。今の仕事のペースや書きたい作品の傾向などを聞かれ、結果、専属作家として契約してもらえることになった。その日のうちに契約書のひな型をもらい、原稿料の支払いのことや除外対象作品(自分の場合、漫画原作の仕事や別の出版社で進めている企画があるので)のことなど、質問に全て丁寧に答えてもらえて、疑問点を解消できた。

『アップルシード・エージェンシー』と契約をしてから、約一か月後。6月の初旬に、河出書房新社の編集者さんと、エージェントさんと3人で打ち合わせをした。そしていくつかの企画を出して検討してもらった結果、『がらくた少女と人喰い煙突』を編集部内で読んでもらえることになった。そして翌年3月、ついに『がらくた少女と人喰い煙突』の出版が決まった。


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