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ゆがむチケット転売 --- ファン選別し優先販売を

2017年6月17日の朝日新聞「耕論」にインタビューを元にした記事が掲載されました(リンク)。テーマはコンサートやスポーツイベントなどのチケットの高額転売問題「ゆがむチケット転売」。その草稿を転載させて頂きます。

ファン選別し優先販売を

大阪大学准教授 安田洋祐

「価値のあるものが高く売れるのは当然だ」「売り手も買い手も納得している転売行為を禁止する必要はない」。チケットの高額転売問題を受け、こんな極論がインターネットを中心に「経済学から出てくる唯一の答え」として広まっているようで残念です。

アーティストや興行主は、チケット収入をただ最大化したいだけではないと思います。将来のファンを増やしたかったり、より熱狂的なファンに会場で関連グッズを買ってもらいたかったりと、様々です。目的の組み合わせによって、チケット販売の最適な制度設計も変わります。その際に、最も注意しなければならないのが、売り手と買い手の情報の非対称性です。

経済学では、市場で商品やサービスの取引を行う際、売り手と買い手の間でもっている情報に格差がある状態を「情報の非対称性」と呼びます。中古市場のように、売り手側が情報を豊富に持ち有利な立場にたつこともありますが、今回のケースでは逆です。主催者側はだれがコアなファンで、だれが転売目的に買おうとしているのか、見極めるのはひじょうに難しいからです。

お金はないけどコンサートに行きたい思いは強い、という中高生のような層は、残念ながら市場ではすくいとれません。だからこそ、工夫が必要なのです。例えば、ファンクラブの在籍年数が長い人や、同じアーティストの過去のコンサートの半券を持つ人などに優先的に定価販売するなど、転売目的だけの人にとってコストがかかるしくみを作ることがポイントです。

主催者側は、最初の販売で情報の非対称性を乗り越え、売りたい相手にチケットを買ってもらえる選別システムをうまくつくれるのか。そこまでは求めずに、転売市場の存在を黙認するのか。転売市場が存在し続けるという前提で考えても、建設的な対案はいくつかあります。たとえば、主催者側の最初の販売で、オークションを導入してはどうでしょう。

一定数は、競売で高い値をつけた人が買える座席として用意し、残りは定価で売る。落札価格と定価の差額は慈善団体に寄付するか、アーティスト側に還元します。仮にチケットが転売サイトに回っても、競売の価格は超えないので過剰な高騰は避けられます。定価市場と転売市場の価格差を減らす効果が期待できます。

音楽業界では、座席指定ができず、購入後は払い戻しもできないという売り方が、ずっと続いてきました。おそらく、このしくみが主催者側の一定のニーズにかなっていた半面、これによって生じてしまった買う側の不満を、転売市場が満たしていた面もあるはずです。主催者が今後、何をめざすかによって、取るべき最適な選択肢は変わってくるでしょう。

2020年には、東京五輪・パラリンピックがあります。スポーツでも、わかりやすく買いやすいチケットのしくみが、求められます。

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