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(新々)三つ子の魂百までも 29



どれくらいの時間が過ぎたのか?
腕時計を見ると2:36と示されている。
僕は普段は腕時計をしないのであるが、
今日はスマホでの時刻の確認よりもスムーズに出来る腕時計をはめた。

裕美さんの顔が蝋燭の火に照らさられ、
不気味に感じるが、妖艶にも見え、
何故か見つめてしまう。
これも以前の僕には無かった感情だ。

妖艶さと言えば、壇蜜に似た直美さんである。
……直美さんがこの様に蝋燭だけの火に照らされると、
もっと妖艶になるのかな〜……

と、思いつつ裕美さんの姿を少し離れた場所から見つめていた。

「そうなの・・・。それで・・・」
と、裕美さんが呟いている。

……来てるのか?!霊が来てるのか?……
と、僕は心の中で叫んでいる。
僕の体は自然と後退りする。
条件反射みたいに。
そして、修を目で追った。

真っ暗な部屋の中に修の輪郭だけが
確認できた。
修には裕美さんの声は届いてはいない。

……恐怖の時間は遅々として進まない……
僕は苛立ちを感じた。

緊張感の漂う中、僕は不安に満ちていた。

……霊に取り憑かれたらどうしよう?
命を狙われたら、怖い………

その不安と恐怖を更に深める。
それは裕美さんの言葉だ。

「お前はそのままでいろ!・・・・。」
小声ではあるが、強い言葉だった。
怒りの声でもあった。

……霊と喧嘩しているのか?
大丈夫ですか?裕美さん。
本当に喧嘩して大丈夫ですか?……
と、僕は不安と恐怖を感じながら、
叫んでいる。
もちろん心の中で!

裕美さんの表情は、それほど変わってはいない。
この前みたいな苦痛な表情ではないのが、僕の救いでもあった。
だが、額に汗をかいているのが、
暗くてもはっきりと解る。
霊と会話するのは、エネルギーを相当使うみたいだ。


裕美さんが、静かに目を開いた。
そして

「公ちゃん、電気付けて。」
と言われた僕は、電気をつけにスイッチの所に、
確認しながらゆっくりと進む。
……終わったのか?……

蛍光灯の灯った事務所は眩しく感じた。

「どうでしたか?霊と会話出来ましたか?」
と、林田の声は不思議と明るい。

修は、無言でソファーに座る。

僕も、林田の無責任でそして、
能天気な明るい声を聞き、
何も話す気にはなれずに席についた。






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