見出し画像

美声の歌姫(720字の小説)

私の耳に心地よい美声が響いてくる。

誰だろう、こんな真夜中に歌を歌っている人は?

朦朧とした意識で考えた。

その歌声は、女性の声でしかも英語だ。

外人女性の歌手が私の家に来たのか?
そんな筈は無いだろう。家には鍵を掛けた筈だ。
私は目を開けようと、試みるが開ける力が無い。
瞼が重い。身体の自由が効かない。
だが、それほどの恐怖は感じてはいない。
女性の優しく美しい声は、私の心を癒してくれるから。

どんな女性だろう?
顔が見たい。きっと綺麗な人だろうな。
金髪で目鼻立ちもキリッとして、一目で僕の心を
鷲掴みにする人だろうな。
僕の想っている人かどうかの
答え合わせがしたい。

だけど、瞼が開かない。
残念だが動かす事もできない私の身体。

もしかすると、この声は幻想?
いや、どこかの霊魂?
幽霊?

幽霊が僕の耳元で歌を歌っているの?
しかも、外人女性の幽霊?

歌が終わった。
男の声がする。しかも日本語で話す男。
女は英語。
何故だ!
そのまま、私は疑問と不安と混ざり合う感情のまま
眠りに落ちていった。

私の瞼に光が差し込んでくる。
夜が明けたみたいだ。
意識はまだしっかりとはしていないが
私はまだ生きている。死んではいない。
眠り薬の量を間違えたのか?!

いつもとは、違う目覚めだったが、
真夜中の出来事は明確に覚えている。
あれは、幽霊が私を助けに来たのだろうか?
私に生きる勇気を与える為に出て来たのか?
死ぬ事よりも生きる事を選ばす為に幽霊が来たのか?

きっと、あの幽霊は神だ!女神様だ!
女神様の歌声で私は勇気を貰った!

私は、悩みに負け安易に死を選ぼうとした自分を恥じた。
「生きよう!辛くても生き抜こう」
と、潔く決意を固める僕であった。

「次のニュースは、・・・・」

私の耳元で、静かにラジオが鳴っている。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?