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僕の最推し漫画【上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花】を紹介させてください

"よい"漫画とは、どういったものでしょうか。

良いのか善いのか好いのか吉いのか佳いのか。

いきなり、どころかしっかりと時間を与えられてもこんな問いを投げかけられては困ってしまいそうですが、僕には明確な答えがあります。

こんにちは。れんかと申します。

今回は、僕の知る限りで最もよい漫画、もとい"酔い"漫画【上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花】について語りたいと思います。

行きはよいよい、始まります。

お酒が繋ぐ関係の物語

まずはこの作品の概要を。

二十歳の大学生・上伊那かみいなぼたんは
酔うと少し大胆になって
一緒に飲んでいる先輩たちにドキッとする一言を…?

1巻背表紙より

主人公・上伊那ぼたんと、彼女と同じ学生寮に住む寮生との関係性を描く。

誤解を恐れず言ってしまうならば、これに終始する作品です。
が、当然ではありますがこれで終わらないからこそ記事を書いている訳で。

詳しくは次項からお話ししますが、先入観なしに読んでみたいという方に向けて公式のリンクをば。4話まで無料で読めます(執筆時点)。

作品タイトルや本記事の見出しから、お酒の知識が無いと楽しめないのでは……?とお思いの方、ご心配なく。作中ではお酒の他にも映画が引用されますが、楽しみ方が増えることはあれど置いてけぼりにされることはありません

現に、僕はスーパーでジャックダニエルを買って(これは良い物を買ってしまったぞ……)と思うレベルですし、映画だって金曜ロードショーレベルの大衆映画とアニメ映画しか知りません。

スポーツの経験がなくてもスポ根漫画が面白いように、転生経験がなくても異世界転生作品が面白いように。知らない世界に気軽に触れられるのもフィクションの醍醐味ですからね。

どこまでも浸かれる作品

僕は、漫画は「浴びる漫画」と「浸かる漫画」に分けられると考えています。二転三転するストーリー展開や派手な作画・演出が楽しい浴びる漫画と、ゆったりとした展開の中で一つのコマ・一つのセリフを味わう浸かる漫画。

ちょうどシャワーとお風呂みたいな関係性ですね。というか、分類の名前はそこから取ったので似るのは必然なのですが。
とにかく、どっちが優れているとかではなく、自分の好みやライフスタイルで選べばいいですし、普段はあっちだけど今日はこっち、とちょっとした気分転換のトリガーにするのも大いにアリ。

僕はどちらも大好きです。
特に好きな作品を挙げるとしたら、浴びる系だと最近は【呪術廻戦】や【ブルーロック】辺り、浸かる系は【やがて君になる】【ワールドトリガー】【ゆるキャンΔ】とかでしょうか。
そして、そんな中でも【上伊那ぼたん】は後者の極致であると思っています。

ここまで適当なことを書いてきたせいでオタクの妄言と思われてしまっては作品と塀先生に顔向けできないので、ここからはこのように考える根拠を述べていきましょう。

抜群の〈空気感〉と舞台装置としての〈お酒〉に酔いしれる

僕は、〈空気感〉こそが【上伊那ぼたん】の真骨頂であると思っています。

静かでありながら雄弁な間と、気品の中に色香を感じる台詞選び。この2つが絶妙に混じり合うことにより、独自の空気感が醸成されています。
作中に漂う、リアルなようで、どこか幻想的あるいは蠱惑的な香りを感じる漫画体験。ぼたんたちの軽快な会話や塀先生による美麗なタッチにつられてスルスルと読み進めていくと、不意に熱に浮かされた自分に気づく。こうした感覚から、"酔い"漫画とした訳です。

そして、絶妙なバランスの空気を運んでいく舞台装置こそが〈お酒〉なのです。

お酒には人それぞれの楽しみ方があります。とにかく量を飲みたいとか、味や香りを感じたいとか、コレクションしたいとか。もちろん、飲まないという選択も立派なお酒との付き合い方です。

そして、ぼたんたちも各様のお酒に対するスタンスを持っています。それは、未知との遭遇であったり、秘密の宝物であったり、はたまた関係のための手段であったり。
こうしたスタンスの違いとそれぞれがそれぞれに抱える思いが交錯することで、関係性の物語は進展し、深みを増していくのです。

また、飲酒がもたらす解放感・高揚感も見逃せません。
ぼたんたちが交わす言葉は、アルコールの悪戯か手助けか、はたまた濁りのない本心なのか。酒の席の言葉だからと軽く流してしまったり、逆にだからこそ?と勘繰ってしまったりと、登場人物たちも読者である私たちも、一つひとつのセリフに振り回されてしまいます。

総じて、空気感とお酒という両輪による、緩急の付いたストーリー展開が【上伊那ぼたん】の大きな魅力であると考えます。

それでは、そうして展開される肝心のストーリーはどうなのか。こちらは次項にてお話ししますので、もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

酔いから醒める瞬間

お付き合いいただけると……と申し上げてすぐのことで申し訳ないのですが、ここからは少なからず本編のネタバレを含みます。
ご興味を持っていただけた方は、先に上げた公式のリンクから…と言いたいところなのですが、マンガクロスって公開期間が終了すると単話ごとの有料閲覧とかできないんですよね。何故…?

ということなので、取り急ぎ先が読みたい方はKindleからになると思います。思いっ切りネタバレ!という内容にはしないようにするので、慎重に検討したい派の方は僕のポンコツ感想文を参考にしていただくという形でお願いします。


※一応ネタバレ注意※


物語の中心になるのは、やはり主人公である上伊那ぼたんと、彼女の先輩であり入居する学生寮の寮長・砺波となみいぶきの関係性でしょう。

無類の酒好きであるものの、お酒を飲むとしゃっくりが出てしまうという体質のいぶきは、他人とお酒を飲むことを徹底的に拒んでいました。
しかし、新入生のぼたんはそんな事情など露知らず、いぶきの一人飲みに飛び入ったうえ、いぶきのしゃっくりを聞いてしまいます。ところが、ぼたんもまた炭酸を飲むとげっぷをしてしまう体質なのでした。
「おそろいですねぇ」と笑うぼたん。いぶきは、そんなぼたんを見て(こいつとなら…)と思い——。

さっくりと1話のあらすじを説明するならこんな感じでしょうか。この後も、盃を交わす度にぼたんらの関係性はゆっくりと、しかし確実に変化していきます。
お酒という舞台装置が、舞台上の空気の停滞を許さないためですね。

物語が続く限りにおいて、舞台装置は働き続けます。空気も関係性も停滞することはありません。
物語とは、必然性という法が支配する世界です。故に、法がお酒を『空気と関係を次の場面へ押し流す装置』と定義すれば、お酒もぼたんらもその通りに振る舞います。

しかし、ならば作中の出来事全てが法と装置の思いのままかと言えば、決してそのようなことはなく。

そもそも、舞台に上がろうとしない人間には法も装置も働きかけることなどできません。偶然の手助けこそあれど、最初の一歩は確かに彼女らの意志によるものなのです。

では、その一歩を踏み出せなかった者はどうなるか。
そんな逆説を体現しているのが僕が最も好きな登場人物、郡上ぐじょうかなでという存在でしょう。僕は彼女についてこそ語りたい。

しかし、悲しい哉、彼女について述べようとすればネタバレは避けて通れません。
彼女に興味を持っていただけた方は既刊をご購読いただければ。【やがて君になる】の佐伯沙弥香とかが好きなら好きだと思います。ソースは僕。

かなでのことは分かったけど、それじゃあぼたんといぶきの関係はどうなの?って話ですよね。そちらについてもご心配なく。彼女たちも流されるばかりではありません。
キーワードは『カタルシス』です。

物語の感想に、よくカタルシスという語が用いられます。何となく使ってしまいがちですが、意味を調べてみるとアリストテレスがあーだこーだと難しいことが書いてあります。
よく分からないので、僕は〈カタルシスとは"横紙破り"である〉と解釈しています。
積み重ねられた必然性を登場人物の行動や意志が捩じ伏せ、捻じ曲げ、新たな法が打ち立てられる。その爽快感・開放感こそがカタルシスなのである、と。

では、ぼたんといぶきの関係におけるカタルシスとは何か。

4巻です。全てはそこにあります。

ちなみに、個人的には紙媒体が圧倒的にお勧めです。紙の質感と塀先生のタッチの親和性が最高なので。

終わります。

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