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なぜ、台湾に「虎に翼」があるのか

迪化街の青木由香さんのお店に買い物に行った際、すぐ近くの神様「霞海城隍老爺」のお誕生日を祝うパレードに遭遇しました。

おめでたいな〜〜 いい光景だな〜〜 と思いながらほっこりしていたら、

あれ?

あれあれ??

目の前に、翼が生えた虎がいるではありませんか!

そうです、今、私が心を鷲掴みにされているドラマ『虎に翼』のタイトルにもある、「虎に翼」です。

<タイトル「虎に翼」とは>

中国の法家『韓非子』の言葉で、「鬼に金棒」と同じく「強い上にもさらに強さが加わる」という意味があります。五黄(ごおう)の寅年生まれで“トラママ”と呼ばれたというモデルの三淵嘉子さんにちなみ、主人公の名前は寅子(ともこ)で、あだ名は“トラコ”です。

法律という翼を得て力強く羽ばたいていく寅子が、その強大な力にとまどい時には悩みながら、弱き人々のために自らの翼を正しく使えるよう、一歩ずつ成長していく姿をイメージしています。

NHK公式サイト| 2024年度前期 連続テレビ小説『虎に翼』

なぜ、台湾に「虎に翼」があるのか

いったいなぜ、台湾に翼の生えた虎がいるのでしょうか。

実際にはもう少し丁寧な検証が必要ですが、巷でささやかれている噂レベルの話をご紹介してみたいと思います。

「虎爺」という守り神

この虎は、台湾で「虎爺フーイエ」と呼ばれ親しまれている守り神です。

「虎爺」については、動物神界的明星──臺灣虎爺信仰(動物神界のスター “台湾虎爺”信仰)」(執筆:葉舜瑜、『典藏 ARTouch』)という記事にとてもよく書かれていました。

↓ こちらの記事には各地のさまざまな「虎爺」が写真付きで紹介されているので、ぜひ見てみていただきたいです。

「動物神界的明星──臺灣虎爺信仰(動物神界のスター “台湾虎爺”信仰)」(執筆:葉舜瑜、『典藏 ARTouch』)

老虎,具有尖利的爪牙、矯健的身姿,虎嘯如雷,森林百獸避之唯恐不及。因其兇猛威武的特性,自古以來中國即相信老虎具有驅邪避凶、嚇阻妖邪的作用。流傳至今,就連本不產虎的臺灣,也擁有極高人氣的動物神──虎爺,不僅為守廟之神、保佑孩童平安長大,還能咬錢招財。

(拙訳:鋭い爪と牙、強靭な体を持つトラは、雷のような咆哮を上げ、森の獣たちからも恐れられる存在。中国では古くから、虎には“趨吉避凶”(すうきちひきょう、凶を避け吉へと導く)の力があると信じられてきました。
もともと虎がいなかった台湾にも言い伝えが広がり、「虎爺」と呼ばれ、非常に人気のある動物の神様になりました。「虎爺」は寺院の守り神、そして子どもたちの無病息災や健やかな成長を守るだけでなく、お金を噛んで離さず、富を呼び込むとされています。

「動物神界的明星──臺灣虎爺信仰(動物神界のスター “台湾虎爺”信仰)」(執筆:葉舜瑜、『典藏 ARTouch』)

もともとトラは気性が荒く、凶暴なので、各地で暴れ回っていたところ、土地の神様や城隍爺によって承伏させられてからは、もう人を傷付けることもなく、神力を持つようになったそうです。

また、神様としての格はそこまで高くなく、多くの場合は祭壇近くの地面や壁の穴の中などで何かを守っていることが多いと上記の文章に書かれていました。

台湾で今も広く親しまれる「虎爺」

ただ、元来の「虎爺」に翼は生えていません。
台湾各地の「虎爺」を見てみましょう。

木彫りの虎爺(出典:國立傳統藝術中心-傳藝典藏網
奉天宮の虎爺(出典:媽祖廟
鎮瀾宮に祀られている神様「伽藍」の足元を守る虎爺(出典:鎮瀾宮
北港武德宮のオフィシャルサイトでオンライン販売されている黑虎將軍
虎爺のLINEスタンプを作るクリエイターもたくさんいます
子どもの守り神として、虎の人形もあります(写真提供:你好我好

そんな「虎爺」に翼が生えた理由

「虎爺」が、台湾で広く親しまれていることは伝わったかと思うのですが、ではなぜそんな「虎爺」に翼が生えたのでしょうか。

これはまだ噂レベルの話なので、できればきちんと取材をしたいところですが…。

台湾のことわざ「如虎添翼」を用いた?という説

今回NHKドラマのタイトルにもなっている「虎に翼」に似た言葉として、台湾には「如虎添翼ルーフーティェンイー」という成語(ことわざ)が存在します。

(出典:萌典

好像老虎長出翅膀。語本三國蜀·諸葛亮《心書·兵機》:「將能執兵之權,操兵之勢,而臨群下,譬如猛虎加之羽翼,而翱翔四海,隨所遇而施之。」比喻強有力者又增添生力軍,使之更強。
《醒世姻緣傳·第六三回》:「那龍氏亦因沒了薛教授的禁持,信口的把個女兒教導,教得個女兒如虎添翼一般,那裡聽薛夫人的勸解。」也作「如虎傅翼」、「如虎得翼」、「如虎生翼」。

出典:萌典

あくまで仮説レベルですが、台湾で広く親しまれている「虎爺」に、台湾のことわざ「如虎添翼」を用いたのではないか、という説が有力かもしれません。

羽が生えた状態の「虎爺」を「飛天虎爺」と呼ぶ

羽が生えた状態の「虎爺フーイエ」は「飛天フェイティエン虎爺フーイエ」と呼ばれています

↓ 台湾のさまざまな神様や妖怪などの物語を広める活動をされているイラストレーターの角斯角斯さんが手がけた「飛天虎爺」Tシャツもありました。

商品説明には、ことわざ「如虎添翼」を象徴していると書かれています。

角斯角斯さんが手がけた「飛天虎爺」Tシャツ
角斯角斯さんが手がけた「飛天虎爺」ワッペン

さまざまな言い伝えがきっとあるはずなので、もしご存知の方はぜひ教えていただけたら嬉しいです。

台北でリアル「虎に翼」を見るなら「玉封鯤溟八將廟」へ

では、「台湾に行ったら“リアル虎に翼”を見てみたい!」という方は、どうしたら良いのでしょう?

台北霞海城隍廟の文化宣伝組長Titan Wuさんに質問してみると、「あの「飛天虎爺」は普段、鯤溟八將廟におまつりされているよ」と教えてくださいました。

ふむふむ、「鯤溟八將廟」。初めて聞いた名前なのでGoogleしてみると、ありました。しかも近い!

「鯤溟八將廟」こと「玉封鯤溟八將廟ユィフォンクンミンバージャンミャオ」は、青木由香さんのお店「你好我好ニーハオウォーハオ」から約400メートル、徒歩6分ほどと非常に近い場所にあります。

シュッとしてかっこいい翼の生えた「飛天虎爺」を見に、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか?

ご利益かどうかわかりませんが、私はこの「飛天虎爺」を見た翌日、とある仕事の締め切りを延ばしてもらえることになり、首の皮一枚でつながるというミラクルが起こりました。

写真左側に、あの「飛天虎爺」がいます!(出典:玉封鯤溟八將廟Facebookページ
YouTuberさんの動画を観てみると、「飛天虎爺」はまた違う位置(写真中央)にいますね。
出典:何宗錡 『【廟會ㄟ走撞】睽違28年🤩鯤溟八將復出了‼️ 大稻埕鯤溟八將團復館 拜會稻江八大軒社

萬華青山宮の青山八將、三重の台疆八將と並ぶ台湾北部の三大八將団の一つ「大稻埕の鯤溟八將」として知られる八將をまつっており、八將をまつる廟としては台北で最古だそうです。

台北霞海城隍廟の文化宣伝組長Titan Wuさんが送ってくださった参考リンクには、こう書かれていました。

「鯤溟八將團的成員角色和原來的稻江八將會成員角色略有不同,先為由人扛著虎爺,但成員已不打面,也沒有虎爺造型,虎爺則是加了翅膀,成為飛虎」

(拙訳:「大稻埕の鯤溟八將」の八將は、元来とは少し違っており、まず虎爺が担がれていますが、担ぎ手はお化粧をしていません。そして虎爺には翼が生え、「飛天虎爺」になっています)

台北稻江靈安社Facebookページ

そして、「大稻埕の鯤溟八將」について詳しく知りたい人は、「大稻埕八將文史工作室」のFacebookページでさまざまな情報やイベント告知がシェアされているという案内もありました。ご興味ある方はぜひ。

玉封鯤溟八將廟ユィフォンクンミンバージャンミャオ
台北市大同區西寧北路89號(Googleマップ
Facebookページ

そして、「大稻埕の鯤溟八將」がお守りする「城隍爺」がまつられている「台北霞海城隍廟シアハイチェンホアンミャオ」もすぐ近くにありますので、ぜひ立ち寄ってみてください。

なにせこの廟には主役の「城隍爺チェンホアンイエ」のほか、婚姻を司る「月下老人げっかろうじん」もまつられていることから、台北最強の縁結びスポットとして知られています。

私もシングルマザーの頃に20回はお参りしており、お守りもジャラジャラできるくらい持っています。再婚の際にはお礼参りに伺いました。

台北霞海城隍廟シアハイチェンホアンミャオ
台北市大同區迪化街一段61號(Googleマップ
Facebookページ

私が“リアル虎に翼”「飛天虎爺」を見かけたのは、まさに城隍爺のお誕生日をお祝いするパーティだったのでした。(撮影・提供:你好我好)
城隍爺のお誕生日をお祝いするパーティは、一ヶ月間かけてたくさんのイベントが催されていましたよ。(出典:2024台北霞海城隍文化節 — 誕隍祭City God’s Birthday

今回はNHKの朝ドラのおかげで「飛天虎爺」という神様のことを知るきっかけをいただきました。台湾の民間信仰は本当に豊かで奥深く、興味深いですね。

追記:
リアル虎の翼「飛天虎爺」に興味を持ってくださった方には、

鯤溟八將を引き連れる「飛天虎爺」の姿がめちゃくちゃかっこいいから、フォトグラファーの詹登貴さんが撮ったこの写真を見てほしい!

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Posted by 詹登貴 on Tuesday, June 18, 2024


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