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笹沢左保「遅すぎた雨の火曜日」

5月15日 テレビ体操再開8回目、再開2289日目、通算3149日目。笹沢佐保「遅すぎた雨の火曜日」(徳間文庫)。小田桐病院の幼女として、2歳まで育てられた理絵。しかし、その後に院長夫妻に男子ができたことで、病院の使用人であった花村夫妻に養子に出される。厄介払いできたとばかりに、その後は花村一家を邪険に扱った。病死した養父を追うように死んで行った養母の、今際の際に、理絵は自身の出生の秘密を知る。小田桐夫妻に怒りを覚えた理絵は、復讐に放蕩息子の長男である哲矢の誘拐を試みる。周到な用意の末に、見事に成功したものの、事件は思わぬ方向に逸れ始めてゆく。
https://www.tokuma.jp/book/b510109.html
 誘拐事件を扱った物語なので、ミステリーと思いきや、この作品は官能小説と言っていいくらいである。誘拐者と人質の繰り広げる、女性の官能開発が頁の大半を割く力作。女性にとっての性の喜びが、いかに花開いてゆくかをメンタルに解き明かす。そのためには、パートナーとしての男性の決意と実行力が、迫真のシーンで描かれる。一方で、その法悦に至るまでの、主人公とパートナーが経験した孤独と寄り添う心が、単なる官能小説ではない人間ドラマを作り出している。

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