西尾潤「愚か者の身分」
西尾潤「愚か者の身分」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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第二回大藪春彦新人賞受賞作の短篇に、その先の物語と背景を描いた書下しの長篇。戸籍売買を取り扱う半グレ集団「メディアグループ」。パスポートを持っていない、運転免許証を取得していない、親兄弟が死んで天涯孤独。マモルは条件が揃った「クリーンな人材」をSNSで発見して、アイコが色仕掛けで近づく。そしてこの人材が借金で首が回っていなければ完璧だ。年次を限った戸籍貸与を持ちかける。世の中には新たな戸籍が必要な人は山ほどいるから、ぼろ儲けだ。そんな「メディアグループ」上層部の金を、マモルをこの仕事に紹介した先輩タクヤは横領した。しかし直ぐにバレて始末される。この物語は犯罪と始末に関わった人々を連鎖して描く。
メディアグループの頭ジョージ、その子分のスキンヘッドの佐藤。残忍で、おっかない。見届け人の海塚、元医者で死刑執行人の間宮、運び屋の梶谷、男を誑かすアイコ、パシリのマモル、ハメられた春翔。チームの中でそれぞれが役割を果たしている。暴力団と違って、入口のハードルが低い半グレ。日本の犯罪はボーダーレスの方向に向かっている。彼らは極道ではない。どこかに人間味の甘さが残っている。中でも規律を乱したタクヤは面倒見の良い兄貴分だった。非情の制裁に狂いが生じた時、半グレ集団に予想外の事態が生じる。凄惨な光景と血の匂いの後に感ずる、登場人物たちの愛すべき凡人さが物語の救いとして描かれている。
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