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打海文三「ロビンソンの家」

打海文三「ロビンソンの家」(徳間文庫)。トクマの特選!シリーズによる巻頭カラー口絵は「ともわか」による。電子書籍版はこちら↓

https://www.amazon.co.jp/dp/B09XGT7FZC/

 高校を休学した17歳のリョウは、ひと夏を過ごすために海沿いの〈Rの家〉を訪れる。そこは、祖母と両親が田舎暮らしをするために建築されたものの、結局誰も住むことのなかった建物。だがそこにはほぼ全裸の若い従姉・李花、そして酒の匂いを漂わせた無頼の伯父・雅彦。三人で奇妙な同居生活の中で、リョウは徐々に母の自殺の真相へと迫ってゆく。次々と登場する親族やその情婦や間男がもたらす断片的な過去情報。パズルのように組み合わせながら、未だ見ぬ母に結ばれた新たな像。それぞれの登場人物が自堕落で魅力的、そしてとっても痛い。

 これは男女の愛憎を巡る駆け引きを描いた本か。それとも人生哲学を斜に語る本か。それとも青春の蹉跌を語る小説か。それともジェンダーロールに懐疑を寄せる本か。解説の宮内悠介は少年リョウのロビンソン漂流記だと見立てる。そのいずれも間違っていない。しかしこの作品は厳然たるミステリーである。母は本当に死んだのか、生きているのか、なぜ自分の前から消えてしまったのか。物語は幾つもの重層構造となっている。ところどころで母の失踪を巡る起承転結が一章の物語としてまとめられる。しかしまた新たに別章が描かれて、新たな局面が提示される。そしてまた次の章が開かれる。時系列には組まれているが、結局のところ、どの章が正解であったかは謎である。「正解を選ぶのは読んだあなた自身である」と著者は黄泉の国で笑っているのかもしれない。

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