見出し画像

上田秀人「隠密鑑定秘禄(二)恩讐」

上田秀人「隠密鑑定秘禄(二)恩讐」。電子書籍版はこちら↓

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BP1Y2WK8/

 自らの手で執政を望む若き第11代征夷大将軍・家斉。『実権を渡してなるものぞ』と老中首座の松平定信。失った権力を少しでも挽回しようと足掻く田沼意次。第5代将軍・綱吉の頃に編纂した諸大名二百数十名の人事評価が記された「土芥寇讎記」の新版作成。それが家斉→ 御側御用取次・小笠原若狭守信善→小人目付・射貫大伍の受けた特命事項。人目を避けて進められる、将軍の居室である「御用の間」。その話しを盗み聞きしようという不逞の輩が。大伍は「土芥寇讎記」の編纂だけでなく、禄高50石を引き換えに、不審者の捕縛までお役目に任じられる。

 第1巻「退き口」のシリーズ続編である。時代小説では憎まれ役が多い松平定信は、今回も将軍を将軍とも思わない実権トップ。しかしそれでも将軍にしか手が出せない場所や組織がある。小笠原若狭守信善そのあたりの虚々実々は、大人のパワーゲーム。そしてこの小説がもう一つ愉快なのは、江戸開幕180年に至って、戦のない平和な鎖国の世をどう渡ってゆくかの処世術。今さら振りかざす正義の必然性もなく、やや投げやりで割り切った主従の関係。それぞれの立場に守らねばならない権益やリスクがあり、それをいかにくぐり抜ける智恵があるかが試される。ハッキリ言って「俺に迷惑をかけるなよ」と言いつつ無責任に指示を繰り出す殿様たち。かしこまりながらも、死地を切り抜けて(用がなくなると一族もろとも口封じや詰め腹で気軽に処刑される)、栄達を目指す家来や忍びの者たち。これはまさに江戸時代サラリーマン小説なのである。わが身顧みて苦笑しながら、身につまされる。それに加えて忍者🥷黒鍬家の美貌にしてナイスバディのちゃっかり娘・佐久良が大伍に嫁入りを迫る、微笑ましい婚活ロマンスの調味料まで効いている。このお話はまだまだ【続く】。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?