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黒葉雅人「宇宙細胞」

徳間SFコレクション電子復刻第7弾。黒葉雅人「宇宙細胞」(徳間書店)。第9回日本SF新人賞受賞。
 その粘体アメーバは、動物を食らい、人を食らう。皮だけ残し、その内側を満たす。あらゆる場所に棲息できる。増殖性で種としては不老不死だ。全滅させられず、一粒でも残れば、食せる獲物があれば増殖。いくら退治しようとしても、できるものではない。粘体と人間のどちらが勝者となるか、わかりきった結末。最初は見るもおぞましい形に変貌した犬の発見から始まった。当初は南極にだけ存在していた、猛烈な食性を持つ粘体細胞の暴走。極地研究所雪氷部員として南極に派遣されていた伊吹舞華は、ジャーナリスト目黒丈二とともに、絶望的なサバイバルに身を投じる。
 人類と粘体の壮絶な生存闘争。映画「エイリアン」のような、有川浩「海の底」で横須賀を襲うザリガニたちのように、グロテスクな生命体。その闘いの過程には、政治不信、リーダーシップ、自己犠牲など様々な人間ドラマがある。結末は予想を大きく裏切る大団円。しかし本作品が異彩を放っているのは、人間と粘体の抗争に決着がついてからだ。それまでのありがちな物語なんて、ぶっ飛んでしまう展開。そこには万物の誕生と消滅が、極めて物理学的に、宇宙学的に描かれている。科学的専門用語で埋め尽くされた文章は、それでいてそれなりの物語を形成している。正直何が語られているのか理解するのは難しい。しかし聖書の創世記や黙示録がサイエンスで語られる光景を俯瞰している気分になる。物事の始まりと終わり。生命の始まりと終わり。世界の始まりと終わり。宇宙の始まりと終わり。その全てを、この作品は一挙に展望させてくれる。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08H1XCKS6/


日本国立両極地研究所雪氷部員、氷丘おおふじ基地氷床掘削技術官
伊吹舞華
三浦直巳
中野学
目黒丈二
ふじ
潜水艦くろしお
葉山宗太郎所長
生物災害、バイオハザード
単細胞
イロハ〜イ爪蛸、ロ蝉海老、ハ人粘体
地下牧場おんごろ
常温核融合
 

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