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原恭久「キングダム69」桓騎と李牧の運命やいかに⁈

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 結論から言おう。桓騎死す。宜安における趙の李牧との雌雄を決する直接の本隊激突。それはお互いの智力を尽くして、その上で双方が相喰む死闘だ。結果的に、お互いが無事ではいられなかった。秦国六将のうち、敵の斬首(それも10万人単位)皆殺しで悪名高い桓騎。しかしその理由と本音が、桓騎の死と共に明らかにされる。暴力による掠奪や殺戮が当たり前だった中華の時代。非合理な差別や、容赦ない弱肉強食への深い怒りと悲しみ。虐げられた者たちだけがわかる共感の世界と連帯が、桓騎一家にはあった。かつて若き桓騎が愛した女性・偲央への慈しみと、その身に起こった悲劇が、悪鬼・桓騎の出発点だった。桓騎が最期を迎える前後の主従の心の動きが、鮮明に描かれていて泣かされる。それは桓騎一家だけではなく、主人公・飛信の心まで抉っていた。筆者は人の心の微妙な動きを描くのが、抜群に卓越している。そして勝とうが負けようが、桓騎は予め全ての布石を打っていた。筆者自身も描きながら考えていたと語る桓騎の人間像。野盗の頭領でいて、それでいてとてつもなく頭が良く深謀遠慮。その反面で敵には猟奇的なまでに残忍。先を見据えていないようで、真実を捉えている。周りにいる女たちは、桓騎の地位などに関係なくゾッコンである。部下は悪態を吐きながらも、身も心も親分に捧げている。水も滴るいい男というのは、桓騎のような男を指すのではなかろうか。そして桓騎の死という挫折が、列国を揺るがし、秦国を新たな方向に舵を切らせる。


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