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横井裕之『「食」インフルエンサーの教科書フードアナリスト公式テキスト4級副読本』

横井裕之『「食」インフルエンサーの教科書 フードアナリスト公式テキスト4級副読本』(徳間書店)。
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 横井裕之氏は日興證券出身で、コンサルタント会社設立を経て、日本フードアナリスト協会を立ち上げて、理事長に就任。日本フードアナリスト協会は、レストランガイドとして欧米から日本に進出してきたミシュランやザガットに対抗すべく、2005年に立ち上げられた。現在では22,000人の正会員と、400の賛助企業を擁する権威となっている。食の情報を伝えるプロとして、1〜4級の資格を認定している。
 食レポをSNSに頻繁に投稿している自分にとって、大変に興味深い本であった。飲食店や料理の評価やモラルについても参考になったことはもちろんである。それに加えて、人生読本としても深い内容があって、感銘を受けた箇所があちこちにあった。今年に入って読んだ本の中ではベストノンフィクションだった。
 日本フードアナリスト協会の会是は「美食」ではなく「尊命敬食」である。地球上の全ての食の循環を受け入れようということ。世界の人口爆発や食糧事情などを具体的に数値を挙げて説明されている。そして「環世界」を説く。人間には人間、犬には犬、ダニにはダニ。それぞれの生物が持つ五感によって、見える世界=つまり情報の質は変わる。品性4箇条として、何を知っているか何をやらないか、毎日を丁寧に生きること、親しき仲にも礼儀あり、日々是好日。巻頭と巻末に挙げられている法句経「人間に生まれること難し やがて死すべき物の いま生命あるは有難し」は、筆者の座右の銘なのであろう。最も感動した下りは「ダイヤモンドの輝く理由」。これは「ダイヤモンドを磨くということは目に見えない傷を作るということ」で始まり「何かをなさんとする時は 傷つくことを恐れてはいけない」で締められる。思わずハッとする一文である。
 フードアナリストには三つの眼が必要とされる。プロとしての技術などミクロを見る虫の眼、経済性などマクロを見る鳥の眼、トレンドを感じとる魚の眼。八つの情報(安全、栄養、新商品、うまいもの、鮮度、調理、味覚、旬、食材)から、料理、サービス、雰囲気、安全安心の点から総合評価を下す。そして人間性、新規性、国際性、地域性、記録性、普遍性からニュースを発掘する。「グルメとは情報である」の指摘に頷かされる。具体的な取材方法や文章の書き方についても指南があった。三つの禁句として「美味しい」「秘伝のタレ」「隠れ家」は使わないことと。しょっちゅう使っていたので、これには思わず赤面して唸ってしまった。当たり前の表現を常用することは、情報伝達における怠慢である。

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