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永瀬隼介「君に銃は似合わない」

12月の永瀬隼介電子復刻の第2弾は「きみに銃は似合わない」。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08NWYRD2Q/
 巣鴨でバー「ソクラテス」を営む菊村直・36歳は元刑事。飯倉署の裏金の存在を内部告発したために、職を追われた。物語はソクラテスで働き、菊村の同棲相手である小梅華・24歳が、菊村の金300万円を持ち逃げしたことから始まる。梅華を思い切れない菊村は、彼女の過去を調べ、実際は葉海藍・29歳であることを突き止める。中国黒竜江省のハルビンから奥に入る白春から、栃木に花嫁として売られ、そこを逃げ出していた。白春を訪問した菊村に付いたガイドは劉明道。美貌にして、聡明なれど、プライド高い青年だった。白春での葉海藍の悲惨な過去を知った菊村は、スゴスゴとハルピンに戻る。そこで地元警察とのトラブルに巻き込まれる。しかし中国公安警察官の楊豪義に救われる。
 日本に帰った菊村のところに、思いもかけず劉明道と公安を辞めた楊豪義が訪ねてきた。菊村は、楊豪義から次々といろいろな申し出や依頼を受ける。先ずは風俗嬢として囚われていた葉海藍を取り戻すことから始まった。そして次は菊村が辱めを受けた飯倉署の裏金強奪。そして残留日本人孤児であった叔母の息子である英虎を覚醒剤取引の世界から救うこと。楊豪義は菊村のノウハウも利用して、次々と驚天動地の出来事を次々と成功させる。菊村と葉海藍と劉明道は、楊豪義の沈着さと豪胆さに魅入られたように、行動を共にする。英虎の救出で、楊豪義は日本の覚醒剤ビジネス乗っ取りを狙っているのではないかと、菊村は見立てる。そこから日本の覚醒剤取引を仕切る但馬連合とハルピンマフィアとの壮絶な駆け引きが始まる。真の楊豪義の狙いは何か?
 貧しい中国東北地方の貧しい辺境と、温暖で富裕な日本のギャップ。そこにはまり込んだ残留日本人孤児の苦難。日中を間にした悲惨な歴史を物語のベースに、息をも飲ませぬ軽快なテンポで、楊豪義の起こす数々の企て。鉄仮面のように表情のない超人・楊豪義、才気煥発だが気が弱く人生経験が足りない劉明道、勝手な行動ばかりしているが誰からも愛される葉海藍、そして正義感が強くお人好しの菊村直。この4人のキャラクターと掛け合いが面白い。電車の中で読んでいて、何度も声を出して笑ってしまった。スプラッターと言っていいほど、凄惨なアクションシーンが続く。タイトルは、楊豪義が菊村直にエンディングで贈ったことば。そのあたりが、この物語で救われるところ。

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