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西村京太郎「寝台特急カシオペアを追え<新装版>」(徳間文庫)

西村京太郎「寝台特急カシオペアを追え<新装版>」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 誘拐された女子大生・小野ミユキの身代金2億円の受け渡しは、上野発の「寝台特急カシオペア」が犯人から父親の敬介に場所指定された。東北新幹線で郡山駅で待ち構えていた十津川警部と亀井刑事だが、2億円も敬介も霧散していた。宇都宮駅で途中下車したと見た十津川たちは、上り列車で東京へ向かう。しかしその後のカシオペアは、ラウンジカーで2人の中年男女が射殺される事件が発生。誘拐事件と関係がある可能性を探って、十津川は警視庁と北海道警と共同捜査を張る。いったい犯人は誰なのか?、そして動機はあるのか?、人質たちは無事なのか?
 このミステリーの妙味は、追う十津川と、追われる犯人の人間としての律儀さだ。敢えて言えばお互いに信頼感さえ感じられる。警察にも立場がある。人質が殺されて、身代金を奪われて、犯人を取り逃してしまえば、信用は地に落ちる。ともすれば人質が殺害されたとの見込みから、警察は犯人逮捕に焦点を絞る。しかし十津川の信念は、あくまで人質の無事確保だ。可能性がある限り、そこだけは譲れない。その覚悟と慎重さは、犯人にも自然に伝わり、いつか誘拐取引の窓口は家族から十津川に移る。憎んでも憎みきれない誘拐犯。しかし犯人の生き様に、刑事という職業を超えて憐憫を感じる十津川に共感を禁じ得ない。
 ちなみに寝台特急カシオペアは、1999〜2015年に運行していた。上野から札幌を結んでいた。地元の尾久駅が夜行列車の車庫だったので、いつも目にしていた車両だった。寝台特急料金は最低でも3万円以上、スイーツなら5万円以上を要する。「走るホテル」と呼ばれるラグジュアリー仕様だった。「カシオペア」はいつかは乗ってみたいと思っていたが、(「北斗星」は乗れたが)果たせないうちに廃止になってしまった。旅情ミステリーを持ち味とする西村京太郎先生らしい舞台である。

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