スタイル(体型)への挑戦
私は自分のルックスというのには全然自信がありませんでした。
SNSでは分かりにくいかもしれませんが、私は身長165cm程度しかなく、世間の男性から見ればチビな方です。
高校生の時は、クラスの同級生がほとんど170cmから上…しかも自分は色白でひ弱な印象でしたので、それがとてもコンプレックスでした。
オシャレに興味が出た時期もありましたが…何を着ても似合わない!
おまけにその頃気付いたのが…自分の脚の短さ!
父親が160cm程度しか無い人だったのですが、この人が印象として…
立ってても座っててもあまり高さが変わらない…
感じの人、つまり身長の内の座高の占める割合がめちゃくちゃ高い人だったので、その遺伝子を強く受け継いでしまったようです…
父の若い頃、パンタロン(ラッパズボン)というのが流行ったらしいのですが、母がオシャレだと思って買って父にプレゼントしたものの、裾上げしてみたら…ストレートのズボンになってしまったそうです。
「ラッパの部分が全部無くなってん…」
何十年も経っているのに、今だに悔しそうに呟いた母の姿が目に焼き付いています。
その父の息子である私は、何を考えたのか、若い頃ショービジネスの世界に入ってしまいました。ようはダンサーです。
まぁダンサーといっても…そんなに本格的にダンスをするわけではなく…ダンスの腕なんかよりもルックス重視みたいな所でした。
なんでルックスに自信も無いのにこんな世界に入ってしまったのか…
もう同僚は脚も長くてスタイルも良くて…衣装なんかも何を着ても似合うんですが…
私はどうしても何か垢抜けない…脚は太くて短くて、体型はズン胴で…
しかもファッションセンスなんてのは…若い頃に似合わないと諦めてしまったので…まるで無くて、なんだか要らん子みたいなものでした。
そんな状態なら、さっさと辞めれば良いようなものですが…その頃から「演じる」とか「表現する」とかが好きだったんでしょうね…
なんとか他の人には無い自分のセールスポイントを!
みたいな事を考えて、たまたま出会った日本舞踊というものにハマってしまったのですよ…
日本舞踊の世界ってのは私にとっては驚きの連続でしたね。
なにせ、私の身長の165cmってのが…
「アンタの背はちょうどいい!」
みたいに言われ…つまり女型をするにも大き過ぎず、立役(男役)をするにもテクニック次第でどうにでも見せられるみたいで…
「脚の短さも良い!腰が低くて重心が安定する!」
…とは言われませんでしたが…笑
私の師匠の西川鯉矢先生という人は、やはり160cmくらいの小さな人だったのですが、なにせ踊ってる姿の美しい人でした。
ところが踊りを止めると…まぁやはり普通に小さい人なんですね。
なのに、また芸を始めると…不思議な事に、男の踊りを踊っててもカッコいいんですよ。
身長から言ったら女型なんですけどね。
どちらも美しいんです。色気があって。
当時、兄弟子が居て、私なんかは下っ端のペイペイでしたので、師匠の代わりに兄弟子がお手本で踊ってくれたりするんですけど…兄弟子は175cmで脚も長くて男前で…踊りも上手で綺麗だったんですけど…
鯉矢先生という人の芸にはなんとも言えない魅力があったんです。
踊っていない時の二人をなんとなく眺めて…
絶対に兄弟子の方が男としては魅力あるよな…
と思ってたんですけど、踊り出すと師匠の魅力はもう抑えられないくらいすごいもので…毎日心が震えるような感動を感じながらお稽古に通っていました。
それで、どうして師匠があの体型で美しく見えるのかが不思議で…ずっと色々と観察してたんですね。
そしたら、お弟子さんのお稽古の時に、そのお弟子さんによって指導の仕方が変わるんですよ。
つまり、ちょっと止まる時のポーズの位置とか角度とか…同じ踊りでも人によっては伸びなさいとか腰を折りなさいとか…指導の仕方が真逆になる事も珍しくなくて…
どちらかというと基本に忠実な先輩なんかは…
「また先生、言ってる事が変わった…!」
「また変わった!先生は基本を大事にしなさ過ぎる!」
みたいに憤慨したりもしてましたけどね、実際師匠の指導を受けたら、そのお弟子さんの姿が美しく変わるんですよ。
つまり、例えばちょっと太めの人なんかが細く見えたり…
それを見ててね、気付いたんですよ。
「体型の見せ方ってのはテクニックで変わる」
って事にね。
それを徹底的に研究し尽くしてるから、師匠は決して恵まれた体型ではないけれども、自分独自の「美しさ」ってのを作り上げる事が出来るんだ、って。
それからまた私の師匠観察が始まったんですよ。
なんか昆虫の観察日記みたいな言い方ですけど…
当時ね、私は日舞としては恵まれた体型だと言われていましたが、問題点がひとつありました。
それは肩幅でした。
私は男性としては決して肩幅が広い方ではなく、そんな逆三角形みたいなカッコいいスタイルでも無かったのですが、いわゆる「撫で肩」ではなく、肩の骨が横に突っ張ってる体型でした。
…でした、っていうか今もそうなんですけど…
この肩幅ってやつがですね、「女型」の踊りをする時に、非常に邪魔になったんですね…
「アンタ衣紋掛け(ハンガー)が踊ってるみたいやで」
と注意されたりしましたが…そんなん生まれついての体型やし、仕方ないやん…みたいに思ってました。
ところがですね、師匠の体を良く観察してみると…私と同じような肩なんですね、普段は。
なのに、師匠が踊り出すと…
肩が無くなるんです!
着物の衿元から両肘にかけてのラインが、自然に真っ直ぐに下りていて…しかも肘の位置が体の幅からあまり外に出ないので…全体の印象がスルッと細いんです。
…なるほど…これは…何か秘密があるんだな…
と思った私は、もうそれから肩の使い方について、あぁでもないこぅでもないと試行錯誤の毎日。
なにせ、片っ方の肩のラインを消すのは比較的簡単に出来るんですが、そうするってぇと反対側の肩が出て来るんです。
結局、この肩幅問題をある程度解決出来るようになるまでは…15年以上はかかったかな。
今でも試行錯誤してますけど…
身長とか体型とかって、やはり生まれついたものってのがあるじゃないですか。
なんですけどね、着物ってのはその点、テクニックさえ身につけてしまえば…結構体型ってカバー出来るものなんですよ。
極端な話、舞台衣裳の着付けなんかをして、ポーズの角度とか色々と工夫してる絶世の美女の舞踊家さんなんか、普段の格好で楽屋でお会いしたら、嘘やろ…ってくらい普通の体型の人が多いです。
何事も精進なんですね…たぶん。
偉そうな事は言えんけど…
それでね、私は思うんですよ。
私の元にお稽古に来てくれる人は、みんな美しく見えるようにしてあげたいなぁ
って。
私自信がスタイルにコンプレックス持ってましたしね。その辛さ分かるし…
せっかく何十年もかけて、着物姿限定ですけど、綺麗に見えるテクニックとか、結構たくさん身につけたつもりなのに…
それを活かして、悩んでる人とか居たら力になってあげれる人になりたいなぁ
みたいな事を考えているんですよ。
これってやっぱり人によって違いますしね。
個人的に通ってもらうしか方法が無いんですけど。
ついでに言えば、これはパフォーマーさん限定になりますが…
ショービジネスにも多少携わっていましたので、例えば舞台なんかで、こうすればもっと見栄えが良くなるよ、みたいなのも伝えてあげたいなぁ、なんて思いもあります。
着物ってね、着物屋さんなんかは生地の良さとか染めとかデザインの良さとか…美術工芸品みたいに思ってる方が多いように思うんですけど…
着て動いてる姿…その着物じゃなくて、着た人本人がエレガントで美しく見えるのが一番良いんじゃないかなぁ。
そういうの、興味ある人は気軽に御連絡くださいね。
微力ですがお手伝いさせていただきますよ。
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