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「中国人じゃなく東京人ですが?」

中国からの留学生 

 私が働いている中国の大学から留学生が来ることになった。コロナになってから初めての留学生。そして私の対面授業を知る最後のクラスの子。

 留学は本来一年間。でもコロナで半年間はネット授業。それでも彼女は諦めず、ついに留学の許可が!そしてコロナ規制が厳しく上海の空港も封じられ、香港経由で三日間移動に次ぐ移動の仮眠のたいへんなコースで高額なチケットを購入して、残り半年間の留学に賭けて彼女はやってきた。

 それに合わせて私も東京へ。

 残りの半年を一年分の留学の濃さにしたいという彼女に一つでも多くの思い出を作ってもらおうと思って、彼女の希望のスカイツリーに連れて行ったり、たこ焼きを食べさせたりした。

 そして夜。念願の火鍋を食べに!

 辛いものを食べる地域から来た彼女にとって日本料理は味がない。早くも食文化の違いに戸惑う彼女のために火鍋を食べさせてあげよう!と思った。

 そこに私の知り合いから連絡。

 実はこの人私がいつどこで会った人かもわからない。わかっているのは東京に家があり中国と東京を行き来する経営者で金持ちだということ。

 その人が日本語を習いたいということで二回ぐらいネット授業をしたが、それだけ。

 でもチャットの感じは悪くなかったし、今回私が東京に行くというので会いたがってもきたし、留学生も一緒にご飯をご馳走してくれるというから、まあ夕方から会うことにした。

 この時は、楽しい会食なると私は信じていたのだけれど……

酒の恨みは忘れない

 その日は朝から留学生の子久しぶりの再会、スカイツリーや浅草寺に行き、アサヒビールのあの金のうんこみたいなところで、外でビールを飲んだり、楽しかった。

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 で、その中国人男性ロウさん(仮名)とは夕方会うことになっていた。

 ロウさんは彼女が見たいと言っていた夜景を見せに連れて行ってくれると言ったのだ。

 でもなぜか三時ぐらいに今どこにいるのかと連絡をしてきて「おみくじを引きたいから」と自分も浅草寺にやってくる。

 そして車で上野公園まで連れてってもらったが

ロウ「上野公園はいつもジョギングしてるし、まあめずらしくもないね」

……終了

 私は彼女が水辺が好きだと言うのでスワンボートのある方に行きたいと言ったが、なぜか聞き流されてスタスタ歩くロウさんの後を追うことに。

 この人とにかく歩くの早くて私も彼女も小走り。トイレ行きたいと言っても駐車場まで我慢しろと言われたり、そのくせ自分が行きたい時は「トイレ行くわ」とすでにトイレの中に消える。

 で、最初は池袋の四川料理の店に連れてってくれると言ってたのになぜかその話はなくなっていた。そして上野の海底捞へ。

 海底捞は中国でも超有名な火鍋のチェーン店。上海で行こうとしたら予約なしだったので待ち時間数時間で食べる頃には夜中だから諦めた思い出が。

 火鍋は彼女も喜んでるしまあよかった。

 で、注文。「好きなもの選んでいいよ」とオーダーのタブレットを渡される。
 そうはいっても最初から「おごります」と言われてるので、高い肉とかセットは選びにくい。
 こんな時、以前駐在員として中国に来ていた岡山のHさんなら、先に食べれないもの聞いたり確認しながら、「これ食べれます?」とどんどん高いものから頼んでくれるし、足りないものはないかと細やかに聞いてくれるので、ありがたい。

 しかも私はお酒が好きだとみんな知っている。
 だから中国でも日本でもまず酒は何にするか、飲むかを聞かれたりもする。でもロウさんは何も聞いてこない。

 まあ好きなもの頼んでいいと言ってるし、ロウさんはそもそもお酒飲む人じゃないというから、運転で飲めないことを気遣う必要もなさそうなんで、私は梅サワー(530円)のオーダーをクリック。
 なにせここまでで私はすでにロウさんペースで疲れていた。
 ずっと中国語なんだけど、速くてほとんど聞き取れない。留学生も彼の中国語は早いし省略も多いと言うぐらい。この辺からもこの人がマイペースというか人のこと気にしないってのがよくわかる。

 しかし最後にロウさんにオーダーのタブレット渡して注文したはずなのに一向に酒が来ない。留学生が飲みたかったオレンジジュースも。そしてなぜかドリンクバーに行けという。留学生が「先生はお酒を頼んだ」と言うと、「そんなもの居酒屋で飲めばいい」と言う。

 まあお酒も飲まない人というし、酒好きな人間が疲れた時こそ食事の前にまず一杯って気持ちはわからないんだろうと思った。

 でもドリンクバーにはオレンジジュースはないし、なぜか彼女にはコーラを飲めと言う。でも彼女は昼に私がビールを飲んだ時にコーラを飲んでいて、「日本のコーラは甘い」と苦手そうにしていたのだ。だからこそオレンジジュースを頼んだんだろう。てかそもそも人のオーダーを確認もなく勝手に決めてるんじゃねぇ!!!! この辺から私の不満は沸々と湧いてくる。

 飲み物も食べるペースも向こうに合わせなきゃないし、こちらが気を遣って会話しなきゃない。

 しかも留学生が私の授業は面白いと言っても無反応。少なくとも私から日本語習いたいと言って連絡してきておいて、授業に興味ないとかなんなん?

 おまけに私は今毎晩この留学生の彼氏から中国語の発音と四声から習ってるのに

「そんなの私とたくさん話せばできるようになるし、私とたくさん会話すればいいでしょ」

とあっさり言ってきやがる。

 ふざけんな!

 それでできるなら5年も中国語に関わってないんだよ! HSK5級合格しても話せないし聞き取れないのは発音と四声が正確じゃないからだと気づいて基礎からやり直してるっていうのに!

 しかもおまえなんて絶対教える側に向いてねーわ!
 少なくともこの留学生の彼氏は、私が何ができないのかどうしたらできるようになるのかと一生懸命考えて教え方もどんどん成長している。
 私が中国語を学び始めたのも、中国人の学生たちがなぜできないかどこがわからないのかを彼らの気持ちになって知るためだ。ただ母国語話者と話してできるようになるなら誰も苦労なんてしないんだよっ!!!!

 そもそも私のネット授業も時給はいくらでもいいと言っておいて2000円を1500円に値切ってきた。こういうことほんと多くて、こっちの好きにしていいと言いながら結局自分が決める。そのくせこちらが聞いてもそちらで決めてくださいと言う。意味わからん。

 海底捞はおいしいので、留学生がおいしかったと喜んでたのがせめてもの救いだったけど、中国人が多くてまるで中国にいるみたいな賑やかさや変面やカンフー麺に私と彼女は喜んでるのにロウさんはまったく興味も示さず「自分は東京人」の謎マウント。

 ここ私が彼女と二人できてもよかったなーと正直思った。3人で1万5千円もしないのは決して高くないしそれこそ居酒屋レベル。それなら私は好きな酒飲みたいし、彼女の好きな牛肉もいいやつどんどん頼んでやりたいし、デザートだって食べさせてあげたい。そもそもはっきり言ってこの人ケチだ。薄々気づいてはいたけども。だからこそお金持ちになるんだろうけど。

 そしてロウさんもドリンクバー。しかもドリンクバーなのにいちいち店員を呼びつけて飲み物を運ばせる。これには留学生も「偉そう」と言っていた。私が店員なら「恐れ入りますがあちらでご自身でお願いします」と言う。セルフだからこそ安いわけだし、運ばせるならそこにサービス料も加えて高くしろと思う。なのにここの中国人の店員たちは嫌な顔一つせず運んでくる。まあ馴染みの店らしいけど、それにしてもなんか感じ悪い。

謎の東京人マウント

 そしてその後「夜景を観に連れて行ってくれる」と言っていたのだけど、ただ車でお台場を走って終わり。それでも一応「わー綺麗ー」と喜んでみせたけど、運転するロウさんは終始無言。気を遣って話しかけても何言っても日本語で「はーい」「はーい」で、さすがにバカにしてんのかと私もムッとしたし、留学生も私に失礼だと感じたらしい。

 そして東京タワーに行ったけど

「ここは写真撮る穴場スポットだ」

と地下に続く階段がある場所に案内される。じゃあ、私と彼女の写真を撮ってくれるのかと言うと、ただの「俺いい場所知ってるぜ」の自慢。

 そこに何かのパーティー帰りの人たちがドヤドヤと来たので私たちは結局一緒に写真も撮れなかった。

 そしてロウさんは

「今の人たち富裕層だね。でもこの先生はそんなこと全く興味がないようだ」

と中国語で留学生に言った。

 おい!聴き取れたからな!

 何その「自分は富裕層は一目でわかる」謎自慢。そんなの確かにどうでもいいわ!そんなことより私は今一緒にいる留学生のことしか頭にないわ!おまえの会社がこの近くだとかこの辺は庭とかどうでもいいわ!少なくとも彼女は初めてなんだから東京タワーのぼらせてやってくれよ! のぼりたいかも聞きもしない。別にスカイツリーの時みたく金なら私が出すわ! 

 でも運転させてる以上向こうに合わせなきゃないし、さっさと歩きだすのでついていくしかない。

 東京タワーの写真をとる私たちのことも田舎者扱い。まるで観光客と笑う。ああそうだよ!それで?観光客に対するサービス精神も皆無で何が案内しますよだ!

 私は留学生に会うために東京に来たんじゃ!留学生優先の大前提で会うことにもしたんじゃ!なのに彼女を喜ばせることができない時点で大失敗!

 しかもたいへんな思いをしてやってきた学生がここまでの費用が高かったと言ってるのに対して

「あーそんなの安い安い」

ってなんだよ! 「たいへんだったね」って言えんのかい!!!!

 しかも東京タワーの後、「皇居行きましょう」と言ってたくせにここでもやはりこちらに何も言わずに勝手に予定変更で上野駅で降ろされて終了。

 留学生は上野駅を皇居と思ったと言う。そりゃそうだろう。何の説明もないんだから。

 一応車で去るのを見送ってはいたがこちらをまるで見ようともしないでさっさと帰るロウさん。

 そして私はその後留学生を大学行きのバスが出るところまで送った。

 当然でしょう? 女の子一人慣れない駅に置いていくなんてできないわ! というか上野でおろしたのもおまえの都合だよな。家が近いから。私らの帰りやすさなんて微塵も考えてないよなぁ!!!!

 で、私は彼女をバスに乗せるところまで送ったあと、泊めてくれてる友人の家へと戻ったが疲れすぎて帰りの電車を間違える。反対方向に行ってしまった。

 もうほんとくたくただったけれど、その友人は風呂上がりだというのに心配してわざわざ最寄りの駅まで車で迎えに来てくれた。
 しかも帰った後、私が飲めなかった梅サワーを作って飲ませてくれた!優しい!好きだ!結婚してくれ!!!彼女の旦那が超絶うらやましい!!!

 ちなみにこの友人こそ生粋の東京人である。しかし謎のマウントなんてない。そもそもロウさんが謎の東京人マウントとるのは、中国人だからってのも大きいんだろう。

 中国では大都市に住む人は何かと優遇されている。海外旅行に行くにも大都市の人は審査が通りやすいが、田舎だと貯金がいくらなければいけないだとか審査も厳しい。そういった問題は日本の比じゃなく、大都市の市民権得るための結婚なんてのも少なくない。特に上海人のプライドの高さや特権意識みたいなのは有名。中国のドラマなんかにもよく出てくる。

 私が働いていた大学の関係者にも田舎出の北京人気取りがいたが、その人は名前まで改名。「飛ぶ龍」という大層な名前だったが、本名は農村の「農」がつくという。農村がいやで改名したんだろうか。

 このロウさんも実は大層な名前だ。でもこのことから本名かも疑わしいと思い始めた。まあ別にどうでもいいけれど。

油腻大叔(キモおやじ)

 その後、前よりさらに親しげにメッセージが来る。「ご飯食べた?」とか「無事着いた?」とか、今はもうガン無視してる。

 留学生は国の彼氏にも愚痴ったようで「二度と会いたくない」と言っている。しかも「油腻大叔(キモおやじ)」とバッサリ。

 でも私に「今回会っておいてよかったですよ。会わなきゃどんな人かもわからない」と彼女は言う。

 ほんとそれなー。

 実は私は今回ロウさんに会ったのは、同僚の先生が阪大に留学するので、彼女が学費と生活費を稼ぐことに追われて研究に支障をきたさないよう、高額短時間のバイト紹介してくれるなり、何か助けになってくれないかと相談したかったからというのもある。

 でもその同僚の先生のことを話したら、なんと七年前にすでに知り合いで、その同僚の先生を含めた日本語を勉強するグループにいたという。

 この同僚の先生は日本語も日本人並みに話せるし、阪大の研究室の留学資格も得るぐらい優秀な人だ。その人から日本語を教わっていたのになぜ私に習おうとしたのか……。答えは簡単。この先生もロウさんとは関わりたくないと思っていて今じゃ連絡もとってないし、今後もとるつもりもないから。

 大体、この時も、彼女の手助けをしてほしいって話なのに「彼女のことも当然知ってるぜ!」の謎自慢。そして始まる自分語り乙!

 その前にも親しくしている女性経営者のビジネスの助けにならないかとロウさんに相談したことがあるが、思えばあの時もさっぱり話が進まなかった。

 なんていうか、会ってみればさもありなんと納得。自分のこと以外興味もない。でも会ったこともないチャットだけのやりとりじゃ、ほんと人となりなんてわからないしごまかせる。

 だから確かに会ってよかったとは思う。

 会ったら猛烈に疲れる人なんで二度と会いたくはないけれど。なんかエネルギー吸い取られる感じというか、私も留学生もその夜は疲れ果てて爆睡。

 ほんと日本も中国も関係ない。「油腻大叔(キモおやじ)」は全世界共通。

 ちなみに老けた見た目に反してロウさんまだ35歳。まあ留学生(二十歳)からみればおっさんなんだろうな。

 

 

 


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