見出し画像

【エッセイ】車内

 これから東京を発つ。帰りの新幹線は連休の最終日だけあってだいぶ混んでいたけれども、やけに静かだった。珍しく一人旅。朝早くにリュックを背負って目的の美術館、午後には、お土産に悩んで駅構内を汗だくになりながら歩き回った。もうくたくた、太ももに湿布貼って寝なきゃ明日に響くかもしれない。暫く前から慣れない土地に行く緊張はあったものの終わってみればなんだか呆気なく、気分転換になったかな、と、今は、落ち着きを取り戻して身体をシートに預けている。車内は観光客が目立ち、上の荷物棚には紙袋と大きなキャリーケースで溢れ返っている。座席に座った直後に席を倒す人も少なからずいて相当な疲れが窺えるが、皆、どこか幸せそう。まるで美味しいご飯を食べ終えた後のような空気がそこかしこに漂っていて、いい。視線を窓の外に向けると見知った田園風景がスライドで流れてきたため慌てて腕時計で時間を確かめる。下りる支度をはじめなくちゃ。