読売新聞・特ダネ記事の読み方

 2024年07月18日の読売新聞(西部版・14版)に、「特ダネ」が載っている。見出しに、

台湾上陸 1週間以内/中国軍、海上封鎖から/日本政府分析/日米の迅速対応 焦点

 記事は、こう書いてある。

 日本政府が中国軍の昨年の演習を分析した結果、最短で1週間以内に、地上部隊を台湾に上陸させる能力を有していることがわかった。政府は従来、1か月程度を要すると見積もっていた。中国軍が米軍などが反応するまでの間隙(かんげき)を突く超短期戦も想定しているとみて、警戒を強めている。
 政府が分析したのは、中国軍が昨年夏頃、約1か月かけて中国の国内や近海など各地で行ったミサイル発射や艦艇などによる訓練だ。
 政府高官によると、一連の演習を分析した結果、各部隊が同時並行で作戦を実施した場合、台湾周辺の海上・上空封鎖から大量の地上部隊の上陸までを数日程度で遂行できることが判明した。分析結果は今年に入り、岸田首相に報告された。

 「特ダネ」は「政府高官」からのリークと想像できる。「政府高官」が発表したのでも、「政府」が発表したのでもない。読売新聞は、例によって「わかった」と書いているが、「どうやって」わかったのか。書いていない。書けないのである。「リークされた」から「わかった」とは、誰だって恥ずかしくて書けない。だから、単に「わかった」と書き、どうやってか、は読者の想像に任せている。
 さて、この記事は、何のために書かれたのだろうか。
 中国が危険な行動を起こそうとしている、行動次第では日本にも影響がある、ということを伝えようとしているのだろうか。たぶん、そうなのだと思う。こうした「仮想敵国(?)」の軍事行動を分析するのは、政府の当然の仕事だと思う。しかし、それが当然の仕事だとして、その「分析結果」をわざわざ読売新聞にリークしてまで書かれているのはなぜなんだろうか。
 記事を読めばわかるが、「分析対象」は「昨年夏」の中国軍の動き。そして「分析結果」は「今年に入り」岸田に報告されている。「今年に入り」というのは、たぶん1月ごろのことだろう。それから半年たって、それを「政府高官」が読売新聞にリークしている。この微妙な「分析結果」から「リーク」までの「時間」が、何とも言えない。
 ほんとうに重要なら(読売新聞の読者だけでなく、国民全員が知る必要があるのなら)、もっと早く「公表」すべきだろう。
 それに、これから書くことが、ほんとうに「不思議」なのだが。
 こういう「分析」って、「公表」していいものなのか。私は軍人ではないが、もし軍人だったら(とくに軍の責任者だったら)、この「リークした政府高官」を徹底的に批判すると思う。こんな「分析結果」を公表すれば、もし、中国にほんとうに台湾を武力攻撃する計画があるなら、この「分析結果」を上回る電撃作戦を展開するだろう。
 読売新聞は「日米の迅速対応 焦点」と書いているが、日米の迅速対応を上回る作戦を中国は準備するだろう。軍事行動とは、そういうものではないのか。誰かが十分に「対応」できるように行動を起こすことはありえない。相手が対応できないように行動してこそ、軍事作戦は効果がある。自分たちの被害は少ない、相手の被害が大きい。それが「攻撃」をする指導者が考えることだろう。
 日米が「迅速対応」するのがわかっていて、「後手」にまわるような作戦を立てるほど中国の軍関係者は馬鹿ではないだろう。
 それにねえ。
 「日米の迅速対応」以上に重要なのが「台湾の対応」だろうが、それについては読売新聞は何も書いていない。台湾は何もしないけれど(台湾の対応は無力だけれど?)、日米が「迅速対応」する、有効な対応ができるということかな? 変じゃない? なぜ日米が対応しないといけない?
 いや、対応すべきことも、あるにはある。読売新聞も、ちゃんと書いている。

 超短期戦が現実となった場合、日米など各国が迅速に対応できるかが焦点だ。日本政府も、台湾に在留する約2万人の邦人の保護や、台湾に近い沖縄県・先島諸島の住民の避難が課題となる。

 アメリカ人も台湾に在留している人がたくさんいるだろう。そういうひとたちの「保護・避難」のために、日米が「迅速対応」するというのなら、記事は(政府高官は)、そういうひとたちを安全に保護・避難させるために何が必要か(何日必要か)ということを詳しく書くべきなのだが、そんなことはどこにも書いてない。
 この記事は、ようするに、中国は危険だ、その危険を防ぐためにはもっと軍事予算をつぎ込まなければいけない(アメリカから軍備を購入しなければいけない)ということを、読者に納得させるための「リーク」なのだ。
 ほんとうに必要なのは「台湾有事(このことばは、今回の記事にはなかった)」が起きないように、「対話」で働きかけるべきなのだが、そういうことは省いて、ただ軍備の増強を訴えるために書かれている。
 これって、次のアメリカ大統領がトランプになるのか、バイデンになるか(あるいは別の誰かが登場するのか)わからないが、どっちにしたって日本はアメリカから軍備を買います、アメリカの軍需産業は安心してください、と伝えるだけのための記事なのだ。だからこそ、「いま」書かれているのだ。アメリカ大統領選の行方が混沌としているからこそ、「いま」この記事がリークされているのだ。

 なんというか……。
 中国の危険性よりも、アメリカから軍備を買い、それでアメリカのご機嫌をうかがうという日本政府の方針がまるわかりの、品のない記事だなあ。
 ほんとうに戦争が心配なら、まず、その戦争で犠牲になるかもしれない日本人をどうやって救出するか、そのために何をすべきか、そういう問題をこそ分析し、公表し、あらゆる方面からの知恵を結集すべきだろう。たった二、三行で「日本人保護・避難」について触れ、しかもそれを「課題」と指摘するだけなんて、私の感覚ではまったく理解できない。戦争で死んでいく(戦争のために殺されてしまう)人間のことを何一つ考えていない。そういうひとたちが「世論」を誘導するために新聞記事を利用している。「特ダネ」を書かせているし、「あ、特ダネを手に入れた」と歓喜して記事にする記者がいる。それを、そのまま紙面にしてしまう記者がいて、経営者がいる。

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