「経済戦争」の行方(フランス大統領選から考えたこと)

 2022年04月12日の読売新聞(14版・西部版)一面に、フランス大統領選が決選投票に持ち込まれたことが書かれている。現職のマクロンと、極右政党のルペンが決選投票に進んだ。ロシアのウクライナ侵攻以後、一時、マクロンが人気を回復したが、最近はペレンにその差を追い詰められている。決選投票は接戦になると予想されている。

 私が注目したのは、次の「解説」。

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 ルペン氏は、物価高騰に苦しむ低・中所得層にエネルギー関連の減税を訴え、支持を急拡大した。自国政策の優先を訴え、EUやNATOとの関わりには消極的な立場で、大統領に就任すれば、欧州政治の混乱は必至だ。

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 私はもともと今回のウクライナ問題は「領土問題(領土をめぐる戦争)」というよりも「経済戦争」ではないか、と感じている。そのことは何度も書いた。コロナで経済が停滞し、どの国も苦しんでいる。アメリカも例外ではないだろう。アメリカはアフガンから撤退したために、軍需産業は武器を売る相手がいない。米軍には売れない。なんとしてもヨーロッパ諸国(NATO加盟国)に武器を買ってもらう必要があったのだ。さらに、ロシアは豊かな資源(天然ガス、石油、小麦)を抱え、ヨーロッパ相手に金を稼いでいる。アメリカがヨーロッパで金を稼ごうにも、ロシアに比べると「地理的」に不利なのである。それをなんとかしたかった。「武力侵略」に抗議する、その対抗手段として「経済制裁」をする、というのがアメリカ資本主義(金儲け主義)があみだした作戦だが、これはロシアからの輸入に頼っている国にとっては大打撃になった。とくに原材料の高騰を商品に転嫁して利益を確保できる企業に比べると、消費者(資本家ではない国民)には大打撃だ。物価が上がり、いままでの生活ができない。この「経済戦争」の犠牲に、フランスの貧困層がいち早く反応したのだと私は思う。

 この動きは、世界に広がるだろう。SNSを初めとするインターネットの情報は、「ロシアの虐殺」情報を素早く世界中に拡散したが、これからは「物価高で苦しむ消費者」の情報も次々に拡散するようになるだろう。そして、この「物価高で苦しむ消費者」の情報は「ロシアの虐殺」のように「刺戟的」ではないが、「事実」を自分の目で、自分の暮らしで確かめることができる。「嘘」というか、「情報操作」のしようがない。ガソリンが値上がりした、ガス代、電気代が高くなった、パンが値上がりした、ひまわり油が値上がりした。それは、だれもが自分の目で目撃できることである。

 一方で、消費者はしだいに気づき始める。消費者の「家計」は赤字になっているが、企業はどうなのか。企業は利益を確保し続けているではないか、と。価格転嫁によって収益を確保し、その収益を消費者が値上がりした商品を買うことで支えている。なぜ、資本家だけが優遇されるのか。

 (こういう批判を先取りしてのことだと思うが、トヨタは、今年の春闘で早々と「満額回答」をしている。従業員の給料を上げることで、物価高に備えている。このニュースのときも書いたが、トヨタは、アメリカ資本主義が展開する「経済戦争(経済制裁)」の行方を最初から知っていたのだ。もちろん独自判断ではなく、政権と「打ち合わせ」ずみなのだろう。)

 フランス国民が投げかけた「疑問」は、これから世界に拡大する。「フランス革命」が世界を揺さぶったように、フランスの「消費者革命」が世界を揺さぶる。

 ブッシュを初めとする政治的権力者(アメリカ資本主義の代弁者)は、NATOを前面に打ち出してロシアの危険性(さらには中国の危険性)をアピールするが、消費者はロシアの脅威など気にしていない。いま、目の前にある暮らしに困っている。貧困に困っている。やがてNATOが存在しなければ、もっと豊かになれるはずだということに気づくだろう。消費者(一般市民)は、すでに「国境」というものを意識しなくなっている。「国境」を越えて、情報も商品も、自由に行き来している。それを阻んでいるものがあるとすれば、それは「軍事同盟」である。「軍事同盟」が「国境」を生み出し、その「軍事同盟」と「資本主義体制」を重ね合わせようとしている。

 私はルペンの「極右政策」に賛成しているわけではないが、ルペンは決選投票で勝つかもしれないと期待している。たぶん、2週間後ではなく、フランス大統領選挙が2か月後なら、ルペンは確実に勝つだろうと思う。物価は、これからもどんどん上がる。便乗値上げも起きる。みんながおかしいと気づき、怒り始めるだろう。

 誰もが「世界平和」について考えなければいけない(自分だけの平和を考えてはいけない)というのは「真理」だが、そのために「ほしがりません、勝つまでは」という精神を生き抜くというのは、はっきり言って間違っている。

 早く戦争終結へ向けての議論(外交)を展開しろ。なぜ、交渉(議論)をしないのか。様々な提案をしないのか。妥結点を探そうとしないのか。

 もともとルペンが台頭してきたのは、フランスの「経済問題」が背景にあると思う。フランスは「多国籍文化」の国である。フランス(パリ?)の小学校で、祖父母を含めて、その「家族」のなかにフランス人以外の人がいる人は、児童の4人にひとり、という記事を読んだことがある。祖父母までさかのぼって「家系」を見ると「純粋のフランス人」というのはどんどん減っている。移民も多い。フランスの「豊かな生活」を求めてやってくる人たちの影響で、それまでフランスで生きてきた人たちの暮らしが変化し、そのことに対し不満を持つ人が増えている。その結果、「移民は出て行け(移民を制限しろ)」というような主張が生まれたのだろうが、この問題、よく考えてみるといい。NATOとは別次元の問題なのだ。経済問題ではあるが、軍事力によって解決できる問題ではないのだ。豊かな暮らしをしたいというのは人間の共通の願望なのだ。

 既にイギリスはEUを脱退したが、経済問題と軍事問題は別であり、いまほんとうに問われているのは「経済問題」なのだ。「経済戦争」の行方なのだ。このままアメリカ資本主義が世界を支配してしまうとどうなるのか。資本家だけがもうかり、消費者は貧困に苦しみ続けるということが起きるのではないのか。そのことに、フランスの消費者は「実感」として気づき始めた。それが、今回のフランス大統領選挙にあらわれている。

 かつてアメリカの政策に対して「ノン」を言い続け、フランスの独自性を維持していた大統領がいたと思う。(名前は忘れた。)ふたたび、そういう「健全」で「多様」な世界がはじまるかもしれない。読売新聞は「(ルペンが)大統領に就任すれば、欧州政治の混乱は必至だ」と書くが、その「混乱」はいまのアメリカ資本主義の「混乱」であり、そこからの「脱出」を意味するかもしれない。「アメリカ資本主義」という「基準」を捨てて、世界を見つめる必要があると思う。「自分の暮らし」から世界を見つめる力が、世界を変えていく。

 私は、フランス大統領選挙が、いまの「アメリカ資本主義」を見直すきっかけになることを期待している。アメリカ資本主義のための「経済戦争」の犠牲になど、私はなりたくない。


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