「防衛の視座」の視座(読売新聞記事の書き方、読み方)

 2022年12月18日の読売新聞(西部版・14版)で「防衛の視座」という「作文」連載がはじまった。「安保3文書 閣議決定」を受けての、「勤勉」な作文だ。
 きのう、
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 防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は「抑止が破られる可能性を低くし、均衡を保つには、日米の足し算が必要だ。米国の足らざる部分をいかに日本が埋められるかが鍵を握る」と語る。
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 という記事があることを紹介した。ポイントは「米国の足らざる部分をいかに日本が埋められるか」。アメリカが補完するのではなく、日本がアメリカを補完する。これが「集団的自衛権」の本質。
 連載の一回目は「「戦える自衛隊」へ脱皮」という見出し。この見出しには、「どこで」戦うかが書いてない。日本で? 違う。「外国で」(国外で)である。そして、この国外で戦うことを、あるときは「集団的自衛権」と言い、あるときは「反撃能力」と言う。どのようなことば(表現)も、必ず「言い漏らし」がある。それは「隠す」でもある。「集団的自衛権」も「反撃能力」も「どこで」を省略することで、問題の本質を隠している。ニュースの基本は5W1H。書かれていない要素を補って読まないと、書かれていることが把握できない。

 「反撃能力」について、「作文」はどう書いているか。
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 最大の柱が、戦後一貫して政策判断で見送ってきた反撃能力の保有だ。攻撃すれば反撃されると想起させてこそ、抑止は機能する。首相は、反撃手段を確実に得るため、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入も決断した。11月13日の日米首脳会談では、バイデン大統領から優先的に取り組む約束を取りつけた。
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 岸田が「反撃能力」を確保するためにトマホーク(5年間に500発)の購入をバイデンに持ちかけ、バイデンは「優先的」にそれに応じる約束をした、と読売新聞は書いている。
 だが、それは本当に岸田が持ちかけたのか。バイデンが「買え」と言って、岸田が「わかりました」と答えたのではないのか。「買え」と言ったのだから、もちろん「優先的に売る」。前段の交渉が書かれていないので、わからない。
 なぜ、私が「バイデンが買えと言った」と想像するかといえば、二面にこういう記事があるからだ。
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【ワシントン=田島大志】バイデン米大統領は16日、日本が新たな「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定したことを受けて「我々は平和と繁栄への日本の貢献を歓迎する」とツイッターに投稿した。バイデン政権は「唯一の競争相手」と位置付ける中国との覇権争いを巡る日本の役割拡大に期待している。
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 バイデンは、中国を「唯一の競争相手」と位置づけている、と書いているが、何の競争相手? W杯? 軍事力? 経済力? 5W1Hの「何(what)」が欠けている。いや、ほんとうは書いてある。「覇権争い」。しかし、この「覇権争い」がまた、不透明である。軍事力の覇権争い、経済力の覇権争い。軍備のことを書いているので「軍事力の覇権争い」という点から見ていく。「どこで(where)」。これも書いていないが中国周辺(あるいはもっと絞り込めば、台湾)である。でも、なぜ、アメリカがアメリカから遠いアジアで「軍事的覇権」を握らなければならないのか。アメリカがアメリカ周辺で「軍事的覇権」をにぎり、アメリカを攻撃させないというのならわかるが、わざわざアジアまでやってきて、アジアを支配するのはなぜ? ここから「経済的覇権」の問題が浮かび上がる。中国に金もうけをさせたくない。中国がアジアで金もうけをすると、アメリカがアジアで金もうけをできなくなる。しかし、この問題は、また別の機会に書くことにして……。
 「覇権争い」に関しては、こういう記事がある。(バイデンのことばではないが。)
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 米紙ワシントン・ポストも16日、防衛費の増額に着目し、「日本の勇気をたたえるべきだ。アジア全域を防衛する重荷を米国単独で負うことはできない」との論評を報じた。↑↑↑
 バイデンでも、岸田でもない、「第三者」の論評だからこそ、「本音」が書かれている。読売新聞が岸田の「本音」をついつい書いてしまうのと同じだ。その本音とは、繰り返しになるが
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アジア全域を防衛する重荷を米国単独で負うことはできない
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 ワシントンポストは「アジア全域を防衛する」と書いているが、なぜ、そんなアメリカ以外の国を防衛する必要があるのか。これは防衛ではなく「軍事支配する」ということである。アメリカの軍事に対抗できないようにする、ということである。アジアはアメリカから遠い。そんなところをアメリカ単独で支配できないから、日本にそれを加担させようとするのである。
 これは、きのう引用した
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 防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は「抑止が破られる可能性を低くし、均衡を保つには、日米の足し算が必要だ。米国の足らざる部分をいかに日本が埋められるかが鍵を握る」と語る。
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 これと、まったく同じ視点。アメリカだけでは、間に合わない。日本がアメリカの「足りない部分」を補足する。政治家は、そういうことを言わないが、それはだれもが知っている。そのだれもが知っていることが、読売新聞やワシントン・ポストの記者を通じて漏れてしまう。隠しておけないくらい、その情報が流布しているということだろう。
 新聞は、こういうところを読んでいくのがおもしろい。私は推理小説(探偵小説)を読まないが(好まないが)、フィクションよりも、現実のなかに隠されている「伏線」を読むのがおもしろい。

 少し元にもどって。ニュースの基本の5W1H。繰り返し出てきた「5年」。最近は隠していたが「防衛の視座」では、復活してきて、きちんと説明している。
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 目標期限は2027年度――。16日に閣議決定された国家安全保障戦略と国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書では、5年後までの防衛力強化に力点を置き、「27年」が随所に登場する。今後の5年間は、計画期間の単位以上の意味を持つ。
 27年は、中国の習近平政権が3期目の集大成を図る年であり、中国人民解放軍「建軍100年」の節目でもある。安保専門家の間では、この年までに中国が台湾の武力統一に乗り出す可能性があるとの分析が広がる。
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 習近平はもちろん「台湾統一」をめざす。中国の指導者なら、だれでもめざすだろう。しかし、それが「武力統一」かどうかは、わからない。そういう見方をしているのは「安保専門家」である。ここが、問題。もし「経済専門家」なら? あるいは「文化専門家」「料理専門家」なら? 「旅行代理店」なら? あるいは、台湾に住んでいるひとなら? そう考えてみれば「安保専門家」だから、軍事を持ち出したというだけのことである。
 習近平は先の大会で「台湾独立を、軍事支援する外国の勢力があるなら、それとは戦う」というようなことは言っているが、「軍事統一」するとは言っていない。「安保専門家」は、「文章の専門家」ではないから、テキトウに読んだのだろう。
 でも、なぜ、そんなに「5年間」にこだわるのか。
 習近平の「任期」というよりも、今後5年で、コロナでつまずいたとはいえ、中国の経済は拡大する。経済の「覇権争い」で、アメリカはトップではいられなくなる。アメリカは、それに気づいたからではないのか。
 ロシアがウクライナに侵攻する前、ヨーロッパとロシアとの経済関係は、天然ガスや石油で強く結びついていた。それは逆に言えば、アメリカの化石燃料の販路が縮小したということである。同じように、中国がアジア諸国にさまざまな商品の販路を拡大し、経済的覇権を強めれば、アメリカの販路はそれだけ縮小する。金もうけができない。アメリカの強欲主義は、これを我慢できない。これがwhay。だから、経済覇権を守るために、軍事覇権を利用するのである。アメリカから遠い場所で戦争を勃発させ、ライバルを失墜させる。これがhowこの作戦は、アメリカの軍需産業にとっても好都合である。どんどん武器が売れる。
 5W1Hを整理し直してみる。
who(だれが)アメリカが
what(何を)戦争を引き起こす
when(いつ)5年以内に
where(どこで)台湾で
why(なぜ)中国の経済発展(台湾統一)を阻止するため
how(どのように)日本の軍事力を利用して(日本を戦争に巻き込み)

 日本経済はどんどん衰退していっている。5年以内、10年以内に、日本人は中国に出稼ぎに行くしかない。それがいやなら、中国と戦争をするしかない。戦争で、日本人の不満を収束させるしかない。それが岸田の狙っていること。
 アメリカの強欲主義が存在するかぎり、世界平和はありえない。アメリカの強欲主義のために、戦争の危機が窮迫している。
 戦争ではなく、アメリカも日本も(特に日本は)中国を最大の経済パートナー(貿易相手国)にする方法を考えないといけないのだが、それができないから、戦争に頼るのだ。

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