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『 木綿のハンカチーフ 』

もう少し、スピンオフにお付き合いください。

僕に初めて「彼女」ができたのは

高校二年のときだった。

やや ポッチャリ型の女の子だが、目がクリッとして可愛かった。

確か、バドミントン部のキャプテンをしていた。

僕はもうその頃は、バスケ部を辞めていたので、

バドミントン部が外練のときは早く終わるので
教室で待っていた。

学校から、姉ヶ崎駅までの30分は手を繋いで歩いた。

音楽の趣味が合って

サザン、尾崎豊、稲垣潤一、杉山清貴&オメガトライブ、ユーミン、大瀧詠一、etc…

当時は、ニューミュージックというジャンルがあり(今でいう J pop)、その辺りのメロディーの綺麗な音楽が好きだった。

貸しレコード屋さんで、いろいろ借りて、それをカセットテープに録音した。

僕のお気に入りは「AXIA」のカセットテープ。
スケルトンのスリムケースがお洒落だった。

ときどき、僕は

Yasuyuki Original と称し、

気に入ってる曲をセレクトし、

for Atsuko を作ってプレゼントした。

中学生のときから、FM Fan、FM Stationなどの

FMの番組情報誌、を買っていて(後の「ザ・テレビジョン」のようなもの。)

それには、ときどき"おまけ"で

鈴木英人(山下達郎などのジャケットのイラストレーター)のインデックスカードがついていた。

もちろん、それ以外のお洒落なインデックスカードもあった。

鈴木英人のイラストは、赤いフォルクスワーゲン、椰子の木、青い空、

という感じで、鮮やかな原色がとても素敵だ。

お洒落なインデックスカードをたくさんコレクションして

その中から、さらにお気に入りを選び

アッちゃんへのプレゼント用に使う。

曲名なども手書きではなく、レターリングというのを使って綺麗に仕上げた。

デートは、特別なものはなく

木更津の喫茶店や、海に向かって歩くと

赤い橋(中之島大橋)があり、とにかく手を繋いで一緒に歩いた。

典型的な、高校生デートだ。

ディズニーランドにも行ったし、海にも行った。

映画も観たし(確か トップ ガンだった)

電車の中では、いつも

ウォークマンで音楽を聴き、ヘッドホンを片方づつ着けて聴いた。

そんなこんなしてる間に、あっという間に三年生になり

進路の話になった。

僕は、すでに美容師になることを伝えていて、

彼女は、父親のコネで千葉のダイハツ自動車に就職予定となっていた。

ここで、ひとつの勘違いが生じた。

彼女は僕が"千葉"の美容専門学校に行くと思い込んでいたのだ。

確かに、千葉には3つの美容学校がある。

でも、僕が行きたいのは「山野美容専門学校」(代々木)か、「ハリウッド美容専門学校」(六本木)である。

「どうして、千葉の美容学校じゃだめなの?」

普通に考えたらそうなるだろう。

だが、僕はこう答えた。

「あのね、僕は一般の美容師になるわけじゃないんだ」

『 an an に載る美容師になるんだ!』

アッちゃんは呆れていた。

「本気で言ってるの?」

「そんなの無理に決まってるじゃない」

と、ため息まじりでそう言った。

『でもね、僕はもう そう決めたんだ、有名な美容師になるってね。』

「私たちのことは、もうどうなってもいいの?」

『大丈夫。東京と千葉なんて、たった電車で1時間半さ、週末ならいつでも帰って来るよ。』

それから、アッちゃんは

そのことには触れないで、いつも通り接してくれた。

三年の12月5日 父が他界した。

アッちゃんは、専門学校はやめて
就職するべきだと言った。

僕の中でも、少しそんな考えがよぎったが

父も母も、僕の美容専門学校行きを
喜んでくれていたし

母は、そんなことは気にしないで、
東京で頑張って来なさい。と言った。

そして、卒業…

僕は、山野美容専門学校に入学すると、

最初は毎週、木更津に帰るつもりだったが

学校の忙しさや、刺激や、新しい世界に

すっかり、アッちゃんに会うことを怠ってしまった。

週に一度の電話と、手紙、

この約束事も、いつの間にか、半月に一度となり、手紙が届いても

そのうち返事を書かなくなってしまった。

あるとき、アッちゃんから電話がかかってきた。

僕は居候なので、伯母さんがいたら、公衆電話からかけ直さないといけなかったのだが

このときは、たまたま誰もいなかった。

アッちゃんは静かに切り出した…

「私はね、ヤッちゃんが東京行くって言ったときから、こうなることはわかってたの…。」

「だから、このままお別れしようね」

と、涙声で言った。

僕は、胸がつまって、何をどう言っていいのかわからなかった。

しばらく、沈黙が続いたあと

アッちゃんは、「そっちで頑張ってね」と言ってくれた。

僕は、「アッちゃん 今までありがとう。幸せになってね。」と言った。

こうして、結局 一度も木更津に帰ることなく

恋は終わったのだ。


恋人よ 君を忘れて
変わっていく僕を許して
毎日 愉快に過ごす街角
僕は、僕は帰れない

あなた 最後のわがまま
贈り物をねだるわ
ねぇ 涙拭く木綿の
ハンカチーフください
ハンカチーフください

遠くに見える烏帽子岩、この景色がたまらなく好きだ。






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