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はるが来た(創作話)

はるが来た はるが来た どこに来た。
「ねぇ、聞いて、聞いて、あのね、あのね〜。」
「もう、はるちゃんはいつもうるさいんだから。ちょっとは静かにしてよ。」と山に住むなつさんに叱られました。
 ただ、チューリップの花が咲いたのを知らせたかっただけなのに。ちょっと嬉しくて興奮して話しかけたのがいけなかったかな?
ただ、教えてあげたかっただけなのに。と、はるちゃんはちょっと悲しくなりました。
 でもね、やっぱりこの情報はみんなに伝えたい。
だから、今度は、里に住むあきさんのところへはるちゃんは行きました。
今度は、うるさくならないように気をつけてね。
「あきさん、聞いてください。あのね、」
「ごめんなさい。今は悲しいことがあって、はるちゃんの話を聞いてられないの。」
と言われてしまいました。そんなわけで、またまたチューリップの花が咲いた話を伝えることができなくなってしまいました。
だから、はるちゃんの心が少し重くなりました。
 でも、あきらめの悪いはるちゃんは、やっぱりこの嬉しさを誰かに伝えたくて、今度は野に住むふゆさんのところへ行きました。
「ふゆさん、あのね、お庭にチューリップの花が咲いたんだよ。」と伝えることができました。ところがどうしたことでしょう。ふゆさんの答えは、「あ、そう。」とクールな冷たい態度を取られてしまいました。
 はるちゃんは、なつさん、あきさん、ふゆさんに、チューリップの花が咲いたよという嬉しい気持ちを伝えたかっただけなのに。
 3人にちゃんと話を聴いてもらえず、はるちゃんは、なんだか話をすることが、嫌になってしまいました。
 嬉しいこと、楽しいことがあったら、誰かに伝えたい。誰かと一緒に喜びあいたい、ただそれだけのはるちゃんだったのに。
 いつも明るく陽気なはるちゃんは、口を閉じてしまいました。それから、誰とも口をきかなくなりました。
そして、はるちゃんは、岩の洞窟に入って出てこなくなりました。
 それを知った鳥さんは、山へ行き、里に行き、野にも行って、はるちゃんのことを鳴いて伝えました。
そして、なつさんとあきさんとふゆさんは、岩の洞窟に行きました。
「はるちゃん、ちゃんと話を聴いてあげられなくて。ごめんね。」
「はるちゃんの気持ちに寄り添えなくてごめんね。」
「はるちゃんに冷たくしちゃってごめんね。」と言って、帰って行きました。
それを聴いたはるちゃんは、ようやく岩の洞窟から出てきて、今度は静かに山に行き、今度はひっそり里へ行き、今度はこつそり野へ行きました。
そんな姿を見た鳥さんは、嬉しくて、山で泣きました。里で泣きました。野でも泣きました。
だからね、はるは知らぬ間にやって来るのです。おしまい。

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