見出し画像

5 果樹王国情報発信拠点について R4.6定例会一般質問⑤

次に、果樹王国情報発信拠点について伺います。
 2月定例会において、果樹王国発信拠点施設に関する予算が突如あげられ、議会の理解が得られないとして、異例の予算取り下げがなされました。この予算上程の経緯については、当時、農林水産常任委員会の副委員長でしたのでよくわかっていますが、あまりの唐突感と議会への説明が不足していたことが問題視されたことは、昨日の渋間議員の代表質問でも指摘された通りです。。
 しかし私は説明の不十分さもさることながら、果樹王国を発信する手段として25億円も投じた「ハコ物」が適切なのか、まさにこの点が問題なのだと指摘したいと思います。
 第一に、このネット社会において、ハコ物の観光施設が情報発信に最適かが疑問です。確かに検討部会の報告書に情報発信施設とはありますが、それが25億もの大施設とは言っていません。各地域の主要な駅の一角に情報発信の場を設けてもいいわけです。もしくはどこかのビルの一角にネット発信施設を作ってもいいでしょう。
 第二に、この拠点施設はきっかけに過ぎず、ここに来たお客さんを各地の園地に誘導するものだとの説明がありましたが、果たしてそう上手くいくでしょうか。寒河江からわざわざ庄内まで移動してくれるでしょうか。ならば今述べたように各地につくった方が有効だとも言えます。
 第三に、農家さんのための研修などに使うという説明もあり、園芸農業研究所に近いことも理由として挙げられましたが、確かにそういった施設はあって良いものでしょうが、今回の施設の目的とは全く違う意味合いのものであります。
 第四に、これが最大の問題ですが、ハコ物である以上、そこに行かなければ体験できないもの、がなければダメなのに、その内容があまりにも薄すぎることです。シアターをつくるなどは面白くありませんし、VRでの農業体験なども実際の園地でやった方が臨場感があります。年中、フルーツが食べられるというカフェも、生で一年中さくらんぼを食べられるわけでもないでしょうし、それこそ各地のカフェでフルーツケーキを食べた方がいいでしょう。
 つまり、そこにしかないもの「目玉」がないのです。
 ディズニーランドはあの場所にしかない夢と魔法が味わえるから足を運ぶのです。山形県が誇る加茂水族館も、クラゲという目玉を見るために訪れるのです。もちろん、スタジアムにはサッカー観戦やコンサートのためにお客さんが集まります。
 類似施設として、鳥取県のなしっこ館があります。二十世紀梨の情報発信施設で、まさに山形がやろうとしたことの先行事例、しかも恐らく25億どころではない予算がかかっています。しかし年間入場者は14万人、他県のことで悪いのですが、加茂水族館の50万人以上と比べればとても成功しているとは思えません。県がそうした施設をつくれば、近隣の小中学生が義理で社会科見学に来てくれるかもしれませんが、それで入場者数を稼いでも、「果樹王国やまがたを世界に発信する」という目的とはそぐわないことになります。
 先行事例がさほど成功していないのに、それより低い予算で、逆転ホームランが打てるほどの「目玉」が構築できるのか。そこが問題なのです。
 農業そのものを体験し、買い物をし、食事をし、遊び、泊まる、といった農業テーマパークのようなものなら、全国にも成功事例はありますから賛成できます。しかし、こうしたものを県がつくってしまえば、民業圧迫になります。問題はまさにここにあって、そこに行きたくなるような「目玉」をつくろうとすると、それに類似した直売所だったりレストランがあったりで、民業圧迫になってしまうのです。民業を圧迫しないようにすると、どうしてもつまらない内容になってしまう。そんなジレンマを感じるのです。
 民業圧迫を避けた「観光施設」。今回の施設の構想を見た時の私の印象は、「フルーツ発信博物館」というものでした。
 博物館であれば民業も圧迫しないし、文化施設であれば儲けを出す必要もない。今回の計画では直売所ではなく「フルーツグッズなどの売店」や観光果樹園ではない「カフェ」があげられていましたが、確かに博物館にも売店やカフェはあります。しかし、博物館に行く目的は展示物や美術品を見ることで、ミュージアムショップやカフェに行くことではありません。返す返すも、中身が重要なのです。
 「フルーツ発信博物館」をつくるのならば、いっそのこと老朽化が進み、建て替えが叫ばれる県立博物館をつくったらどうなのでしょうか。その一角に、山形の果樹の歴史や果樹関係の文物や技術紹介の展示スペースをつくればいいのです。シアターやVR体験があってもいいでしょう。果樹王国やまがたにふさわしい、特色ある博物館になると思うのですが、いかがでしょう。しかし県立博物館である以上、「果樹王国の世界への発信」をメインの目的としてはならず、メインはあくまで「県の歴史や文物」を展示、発信することということになります。その意味でも、県立博物館の一部にフルーツがあっても問題はありません。そして博物館は観光施設ではなく文化施設ですから、儲けや入場者数が最優先ではありません。
 いずれにしても、ハコ物をつくることが絶対にダメだとか、コンクリートから人へ、などと言うつもりはありません。また、果樹王国の発信が不要だと言っているわけでもありません。その手法に「25億のハコ物」が最適か、そしてそれだけの物をつくったあとで、世界から人を呼べる「目玉」が用意できるのか、そこに最大の問題があるのです。
 果樹王国情報発信拠点施設について、議会への説明が不十分だったという理由で取り下げた訳ですが、情報発信にハコ物が最適で、それに見合った目玉がある、という計画でない限り、なかなか議会と県民の理解は得られないでしょう。
 果樹王国の情報発信拠点の今後の考え方について、農林水産部長の考えを伺います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?