見出し画像

ダメ男とシッポミと影武者シッポミ

おい、我が相棒のぽんぽこよ、聞いてくれや。今日はお前さんともちょっとばかし関係のある話をするぞよ。

ニャんだ、今日はダメ男の話じゃニャいのか
ニャアは忙しいんだから、手短に頼む

忙しいって、寝てるだけじゃないか。

寝てるだけとはニャんだ!ニャアは睡眠学習をしてるんだ!!

そうか。わかったよ。そのうち睡眠学習枕でも買ってやるわ。ってアレ、まだ売ってるのかね。


◆ ダメ男は猫嫌いだった

画像1

初回でも書きましたように、noteのサブタイトルである「猫とアタシと二人のをとな」は谷崎潤一郎の名作「猫と庄造と二人のをんな」の<モジリ>です。

これはアタシが庄造同様のダメ男である、そしてこれまた庄造と同じく「猫をこよなく愛する」からなのですが、実はアタシも最初から猫が好きだったわけではありません。
むしろ、成人するまでは「猫=怖い」というイメージさえあったほどで、ほれ、昔のギャグ漫画によくあったじゃないですか。猫に顔をバリバリッと引っ掻かれるようなシーンが。あれが想像するだけでも怖くてね。つまり漫画の影響で猫が怖かったんです。

ところがある偶然から、アタシの猫にたいする恐怖心が消えた。というか消えざるをえなかった。
あれはアタシが大学生だったある日、一匹の野良猫を見かけた。もう見るからに弱っており、怪我もしている。
こうなるとさすがにほってはおけない。動物病院に連れて行って手当したんです。
手当したんだからもうそれでおしまい、となるのもね、いくらなんでも薄情すぎる、と思って、とにかく元気になるまではこの猫の面倒を見ようと。
この猫も「ぽんぽこ」「くるくる」同様ハンドルネームを付ける。えと、とにかくこの猫、尻尾が異様に短かったんで「シッポミ」にします。

「ひみつのアッコちゃん」に尻尾の長い<シッポナ>って猫が出てたからだけど、あれはshipownerの略でシッポナらしい。ま、赤塚不二夫だから後付臭いな、と思ったけど、シッポナって名前を考えたのは雪室俊一なのか。
どうでもいいね。こりゃまた失礼。


◆ 【閲覧注意】繰り返す【閲覧注意】

えと、これから書くことはある意味<グロ>です。いやグロとは違うか。とにかくかなり気持ちの悪い話なので、ぎょう虫とかそういうのが苦手な方は是非とも読み飛ばしてください。

ある日、シッポミを見ると尻の穴から、何かちょろっと、出てる。何だろ、と思って覗き込むと、白い、ちょうどきしめんくらいの太さのぎょう虫が出ているのです。
最初はそのうち治まるだろ、と気楽に考えていたのですが、そのうち常時床につくくらいの長さが出るようになってね、便をするとそれがぎょう虫について、部屋が便まみれになってしまう。
一回、だったら全部引っこ抜いてみようと思ってね、ビニール手袋を買ってきて、ぎょう虫を摘んで引っ張ってみたんです。
するとまあ、引っ張っても引っ張っても途切れない。1メートルくらい出したところで怖くなって。

さすがにこれはマズい、と思って先の動物病院に連れて行った。
結局、この時もらった虫下しの薬でぎょう虫はいなくなったんだけど、アタシは先生に問うた。これ、何でこんなのがお腹に入ったんですか、と。
すると先生

「おそらく野良猫の時にカエルを食べたんでしょう」

・・・うぇぇぇえ。カエルかぁ。
このせいでしばらくカエルが苦手になったし、ついでにきしめんが食べられなくなってしまった。
きしめんにカレーをかけたの?止めろ!またトラウマが復活するじゃないか!!


◆ シッポミ、失踪する

ある日、部屋に帰るとシッポミがいない。まァ半外猫にしてたから、というかいつでも自由に外に出れるように少しだけ窓を開けていたから、そのうち帰ってくるだろうと。
ところが待っても待ってもシッポミが帰ってこない。
アタシは慌てて探しに行った。

おーい!シッポミ~!
帰っておいで~!

この日以来、シッポミはいなくなった。
散々近所は探したし、ちょっと猫では行けないような距離まで探しに行ったこともある。でも、いくら探しても、いないものはいない。
この時はさすがにショックだった。
もう一度言いますが、アタシは猫が苦手だったんです。それをシッポミは払拭してくれた。たしかに「しかたなしに」「しばらくの間だけ」ってつもりだったとはいえ、シッポミが来て3ヶ月。さすがに情も湧いて、たぶん、ずっと飼うことになるんだろうな、いや、そうしたいな、と思うようになった矢先だった。

でも、もう、どうしようもない。もしかしたらそのうち帰ってくる、そのために窓だけは変わらず少しだけ開けておこう。
それだけがアタシに出来ることでした。


◆ 何か変だぞ

シッポミが失踪して3ヶ月が経ちました。
その間も、暇を見ては探してはいたし、相変わらず窓も開けてたけど、まったく見つかることはありませんでした。

そんな頃、近所の子供が輪になって何かやってるのを見かけた。どうも猫をイジメてる様子で、見てみると、そこにいたのは、シッポミ!

こんなとこにいたのか!!
ずっと、ずっと、探してたんだぞ!!
お前もよほど苦労したんだな、何だか柄も薄汚れてるし、大変だったな

シッポミは怪我をしていたので、再び例の動物病院に連れて行ってやった。
そこで獣医の先生が驚くべき言葉を発します。

「これ、前の猫ちゃんと違いますね」

・・・え?

「前の猫ちゃんはオスだったけど、この猫ちゃんはメスですよ」

・・・そんな馬鹿な
・・・ホントだ、アレとアレがない!!

これは困ったことになった。シッポミと思った猫はシッポミとはぜんぜん別の野良猫だった。
たしかに尻尾の長さは同じくらいだったとはいえ、いくら苦労したからって柄が変わりすぎで、元のシッポミはわりと綺麗な柄だったんですよ。でもコイツはどう見ても綺麗とは言い難い。言っちゃ悪いけど「雑巾猫」と呼ばれてもおかしくないほどです。
問題はこの雑巾猫をどうするかです。
人違いならぬ猫違い、本当なら飼うなんてあり得ない。しかしシッポミを保護した時と同様、この雑巾猫も怪我をしている・・・。
アタシは腹を決めた。

よし、お前はシッポミの影武者だ

影武者と言って悪ければ、お前は二代目シッポミだ

こうしてアタシは別人ならぬ別猫とわかりながら、雑巾時ならぬ二代目シッポミを飼い始めたのです。


◆ ダメ男と影武者

初代シッポミがアタシの猫への苦手意識を払拭してくれた存在ならば、二代目シッポミはアタシが猫を愛するようになったきっかけと言える存在です。

たぶん、今まで飼った猫の中で一番遊んでやったのが二代目シッポミだと思う。
わざわざラジコンを買ってきてね、それでシッポミと追いかけっこもしたし、当時アタシは寿司屋(と言っても本式のじゃないよ)で働いていたので、マグロのすき身をもらってきて毎日のようにあげたりもしていた。
二代目シッポミとはこの後、ふたりして(正確にはひとりと一匹か)とんでもない災難に巻き込まれて大変な思いをするんだけど、この話は長くなるので、また今度書きます。

さてアタシは今現在、ぽんぽこという猫と暮らしています。
ぽんぽこと二代目シッポミの共通点は多い。
まず柄が、どう考えても綺麗な方じゃない。まァシッポミは野良猫だからっつーか、おそらくはただの雑種なので当たり前かもしれないけど、ぽんぽこは一応とはいえ血統書付きですからね。なのに、何か、顔立ちを含めて見た目も似てるんです。あきらかな違いはぽんぽこの尻尾は普通に長いってことぐらいで。
もうひとつの共通点は、ぽんぽこも二代目シッポミも、恐ろしく賢いことです。
とくにシッポミは元野良猫だから誰かに教育されたわけでもないだろうに、トイレの失敗は一回もなかったし、普通猫が嫌がると言われている「トイレの場所の変更」もあっさり受け入れる。
しかも何度か引っ越ししたにもかかわらず、どこの環境にでもわりとすぐに馴染むという塩梅で、そういう意味では苦労をかけたんだけど、それを受け入れるだけの知能も適応能力もあったんです。

おい、ニャアの頭が良いエピソードは書かニャいのか

まあ待て。ぽんぽこの賢い話とかいくらでもあるんだから、そのうち、な。

画像2


◆ さらば、影武者

アタシが二代目シッポミと一緒に暮らしたのは8年ほどです。
しかもアタシは二代目シッポミの死に目にあっていない。それは・・・。

この話もいずれ詳しく書きますが、アタシは仕事の都合で東京に転勤になってしまいました。
しかし東京の部屋では猫は飼えない。だからといって転勤を断るわけにもいかず、アタシは「しばらくの間」つまりは「猫が飼える部屋に引っ越すまで」の条件で、二代目シッポミを実家に預けたのです。
そして、ようやく猫が飼える部屋に引っ越すことが出来た。アタシは実家に電話した。シッポミを引き取りたい、と。
母親の声は沈んでいた。

「たぶん、それは、無理だと思う」

無理?何が?

「もうシッポミは前のシッポミじゃない」

どういうことだよ!

「もう、相当耄碌している。はっきり言えばボケてきている。この間も自分の家がわからなくなって、相当遠い郵便局のところでやっと見つけた」

・・・そうか。そんな状態で引っ越しなんて、そんな可哀想なことは、さすがに出来ない・・・。
それからふた月ほど経った頃に二代目シッポミの訃報を聞いた。
心残りは最後、実家に帰ってやれなかったことで、たしかに忙しい時期だったとはいえ、何がなんでも帰ってやるべきだった。
しばらくして実家に帰るとシッポミの遺骨が置いてあった。

ゴメンな、シッポミ

最後まで苦労かけたなぁ

お前には何もしてやれなかったな

でもな

お前のおかげで猫が大好きになったんだ

本当にありがとう

もう、ゆっくり休んでくれや


◆ 初代シッポミと二代目シッポミとぽんぽこ

noteの2回目(「ダメ男とダメ男の相棒」)にてアタシは「生きていこうなんて思えない状況だけど、ぽんぽこ(とくるくる)のために何がなんでも生きよう」みたいなことを書きました。

2018年、あの辛かった状況で、ふと、二代目シッポミのことが頭をもたげた。
もう、あんな思いを猫にさせちゃいけない。どうしても人間の都合で猫を振り回してしまう。それはある程度はやむを得ないことなのかもしれない。
それでも、飼うのを途中で放り投げるようなことだけは死んでもしちゃダメだ、と。

・・・そうか、だったらニャアは三代目シッポミじゃニャいのか

違うよ、ぽんぽこ。お前さんはぽんぽこだ。たしかにお前さんを見てると二代目シッポミを思い出すよ。いろんなところが似てるからな。
でもアタシの中での役割が違う。
初代シッポミは「猫への苦手意識を払拭させてくれた」、二代目シッポミは「猫が大好きになったきっかけ」だ。
でもぽんぽこ、お前さんは「猫という存在を超えた<相棒>」なんだよ。わかるか。なぁ。

話はそれで終わりか。だったらニャアは寝る。睡眠学習に忙しいんだ!

ゆっくり寝ろ。でも長生きはしてくれよな。頼むぞ。何たってお前さんはアタシの<相棒>なんだから。
てなわけで、さらばじゃ!

画像3