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木の記憶11/触れる

 目が覚めると病院のベッドの上だった。ぼんやりとした意識の中、最後に記憶しているのは、宿泊施設からツリーハウスの依頼を受けて、その敷地にあるモミジの木に触れたところまで。聞けば、測量をしている途中で掴んだ枝が腐朽しておりボキッと折れそのまま後ろに落ちたらしい。病室の天井を見ながら、ふと子供のころの記憶が蘇る。祖母の家の庭にあった柿の木に登り柿を獲って食べたり、友人と公園の木に登りそこから見える景色を楽しんでいた日のことを。あんなに木登りが得意だったのになあ・・・。そんなことを想いながら木から落ちたことにショックを受けつつ、でも確かに朝露で湿った枝の感触は手に残っていた。
 ある日、卒園した幼稚園から一本の電話が入った。 それは園長先生からで、園庭の木にツリーハウスを検討しているとのことだった。 依頼を受け内心どきどきしながら訪れた約40年ぶりの園舎には、枝葉を縦横に伸ばし大きく成長したセンダンの木があり、まるで出迎えてくれているかのようで少しホッとした。センダンは初夏に小ぶりの淡い紫色の花を咲かせ、秋の深まりとともに黄色い実をつける落葉樹であり、四季を通して表情が豊かな樹木。園舎は新しく建て替わっていたが、当時からある遊具や木々から園庭を駆け回りその黄色い実を友人らと投げ合ってはしゃいだあの頃が想い出され、目の前の園児達をみては懐かしい気持ちになった。あの頃からずっと子供達に踏み固められてきた園庭の土は、雨が浸透しにくく土に十分な空気が含まれていないらしく木には過酷な環境かもしれないが、しっかり根を張り生きていて、こうして再会できたことを嬉しく思う。 
 これから出来るツリーハウスが子供たちにとって木との触れ合いを楽しむきっかけの場となることを願いながら、今日は樹木医の先生と共にセンダンの木に触れ腐朽していないか観察している。
(建築屋さん係/上玉利佳哉/山とデザイン室)

再会したセンダンの木

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