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丘珠空港の滑走路延長(その6)ERJの離陸距離

前回(その5)は こちら。↓

いま丘珠空港に就航しているジェット旅客機は、エンブラエルのERJ-170シリーズ。フジドリームエアラインズ(FDA)が丘珠と静岡および松本を季節運航しています。2022年は10月30日から冬の間運休(翌年3月25日まで)となります。

札幌市が2022年6月に公表した「丘珠空港の将来像(案)」によれば、ジェット機 ERJ170/175 は、現状の1500メートル滑走路では「△ 冬季不可」ですが、滑走路長が1800メートル以上なら「◎ 通年可能」となっています。

「×」じゃなくて「△」にしてあるのはなぜかな? 条件付きで運航できる場合もある、ってことかな。

離陸に必要な距離

そこで、FDA運航機の8割以上を占める ERJ-175 STD 機(以下、E175 と略す)が離陸するのに必要な距離を調べてみることにしました。ネットで見つけたマニュアル (APM) に Takeoff Field Length の算出グラフが載っていたので、諸条件を当てはめてみましょう。

APM : Airport Planning Manual
ERJ
: Embraer Regional Jet
FDA : Fuji Dream Airlines
STD : Standard


▲ Takeoff Field Length の一例(EMBRAER 175のグラフに加筆)

この図は、E175 Airport Planning Manual (APM-2259, 28 JUNE 2005, Revision 18 - 26 NOV 2021) に掲載されているグラフを拡大し、青で書き写し、赤で書き加えたものです。離陸に必要な滑走路長が長くなる夏を想定した、気温30度(ISA+15℃)のグラフです。

離陸のための滑走路の長さは、機材、大気、そして滑走路それぞれの要素が影響します。

・機材

乗客と貨物を載せ燃料を搭載した飛行機の重量が重いほど、長い滑走距離が必要になることは想像できます。E175 は84席で 最大離陸重量(MTOW)が37,500kg(APMより)とされています。

また、主翼の揚力を増大させるフラップの設定や、エンジン推力の設定なども離陸滑走距離に影響します。フラップは短距離で離陸できるよう「FLAP 4」を選択し、CF34-8E5エンジンの T/O-1モードで 自動離陸推力制御システムをオン(ATTCS: ON)にします。わずかですがエンジンパワーが取られる空調装置は離陸時だけオフ(ECS: OFF)にします。

ATTCS : Automatic Takeoff-Thrust Control System
ECS : Environmental Control System
MTOW : Maximum Takeoff Weight
T/O : Takeoff

EMBRAER APM


・大気

揚力は空気密度に比例します。その空気密度が薄い夏季を想定しました。国際標準大気(ISA)では海面を高度の基準とし、気圧29.92inHg、気温15℃などと定めており、ISA+15℃ は気温30℃のことです。

また、風向や風速も離陸の滑走距離に影響しますが、風に向かって離陸すれば距離は短くなるので、このグラフは無風の場合で示されています。

・滑走路

丘珠空港の標高は 26ft(8m)、滑走路の勾配は平均で0.154%(いずれもAIPによる)なので、海面(Sea Level)とほぼ同じ気圧で、滑走路は平坦(Level)とみなして構わないでしょう。

  • Airport Pressure Altitude : Sea Level

  • DRY, SMOOTH, HARD PAVED and LEVEL RUNWAY

とします。冬季の滑走路状態を示したグラフは見つかりませんでした。

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現状の滑走路1500メートル以内で離陸するためには、上記のグラフの赤線のとおり、離陸重量は 約34,800kg 以下となります。この離陸重量とした場合、乗客数の制限や搭載燃料の制限がどの程度必要なのか/ほとんど必要ないのか、分かりません。参考までに、他の条件を変えず気温だけ15℃にすると約35,600kg となり、約800kg上がりました。乗客と荷物を併せてほぼ10人分くらいでしょうか。

そして、滑走路を1800メートルにすると最大離陸重量37,500kgで離陸できそうと、このグラフから読めます。

実際には、加味しなければならない他の要素もあるでしょうし、最終的にセイフティ・マージンを何パーセントか考慮する必要があるかもしれません。

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1500メートル滑走路で「△ 冬季不可」というのは、離陸時よりも おそらく着陸時の滑走路長が問題なのではないでしょうか? それについては次回に検討しましょう。


E175, JA06FJ



※ 写真はいずれも、2022年8~9月の新千歳空港で、やぶ悟空撮影

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