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PPP的関心【民間主導の公益創出。民間事業者(薬局)の取り組みと地域包括ケア】

「民間主導」の事業によって地域のヒト・モノ・カネの流れを創造し生じた利益を地域に還元する(税を納めるなど)ことで、地域の公共の福祉の増進に貢献する循環を生むという考え方が公民連携の根底にあります。
とともに、以前の記事でも書きましたが、「公的サービス」提供の役割分担を考える際には「PPPの定義」の一つ「最も効果・効率の高い官・民・市民の役割分担を検討すること」が考慮され、さらに一つのPPP的手法を用いて複数の地域社会課題の解決を目指すことも考慮されるべきだと思います。

自社(自分の地域)だけでやれれば良いが、解決すべき課題を見ると影響範囲が大きく複雑化(例えば糸島においては、交通弱者支援+観光利便性+事業者の持続可能性などそれぞれ別現象であるが根底の要因は共通課題…というような)した時代において、連携による解決策の方が効果が大きく効率が高いということだと思います。

今回は、民間企業(ウエルシア薬局)が地域包括ケアシステム構築において各地の自治体と連携して取り組む活動について書かれた記事を読んで、地域包括ケアについては門外漢ではありますが、その取り組みをPPP施策の原則に引き寄せて考えてみました。

今回関心を持った記事。
薬局が店舗内に高齢者の「通いの場」

ウエルシア薬局は、2015年から自社の店舗に「ウエルカフェ」と名付けたフリースペースの設置を進めている。
地域包括ケアシステムの中で生活支援や介護予防を担うべく、高齢者の「通いの場」を設けて地元自治体や社会福祉法人など非営利団体に無償で提供、公民の協働により健康増進、福祉、文化などの活動を実施してもらうのが狙い

記事より

参考)地域包括ケアシステムとは

団塊の世代が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。
このため、厚生労働省においては、2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

厚生労働省HPから

システム構築にあたっては、「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう」な状態を実現すべく「5つの構成要素(住まい・医療・介護・予防・生活支援)が相互に関係しながら一体的に」提供できるよう、「市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていく」とされています。

地域包括ケアシステムは、必ずしもPPP的な取り組みとして認識、位置付けられているものではありませ(少なくとも、地域包括ケアシステムに関する記述の中で「PPP」という表現は使われていません)。
しかし、地域包括ケアシステムの土台とされる介護予防・生活支援は自治体による介護予防サービスボランティア団体等による安否確認・見守り活動等が前提となっています。つまり官と民がそれぞれで取り組む活動を「連携して」行うという点で公民連携的な施策といっても良いのではないかと個人的には考えます。

PPP的施策と考える視点
多様な地域の課題を同時に解決しようとする試み

地域包括ケアシステムの中で、ウエルシア薬局が行っているのは

  1. 場作り:高齢者と地域の様々な社会資源が集まり、生活支援や介護予防のための活動を行う場としてウエルカフェの設置

  2. 場の提供:提供したカフェで、行政に求められる高齢者向けの施策(健康教室、居場所づくりなど)を地元自治体や様々な市民団体、他の民間企業と協働(ウエルシア薬局の持つ薬剤師や管理栄養士といった人的資源活用等)して実践

といった「場」と「機会」の提供です。

PPP的な施策であれば効果と効率の両立を考えて一つの取り組みで複数の課題解決を目指すことが一般的で、記事中の取り組みにはそのような考え方が伺えます。

(無理矢理な理屈付にも聞こえるかもしれませんが…)その考え方に照らし合わせても、自社の多様な人的資源の活用や多様な民間団体、企業のハブとなって場の効果を高めようとする考え方はPPP的施策をリードする民間企業としての姿勢を強く感じるものだと思います。

PPP的施策と考える視点
最も効果・効率の高い官民の役割分担の重視と実践

民間企業が主導する共助の地域社会づくりには、当初、自治体から疑問の声もあったという。だが今は、地方自治体に共助を進めようという空気が出てきて、講演会などの際に声をかけてくれるなど、行政からの信頼は向上し積極的に支援してくれるようになった。

記事中にある「当初、自治体から疑問の声もあった」という状況はたまたま見聞きした事例にすぎないのかもしれません。こうした考え方を持ったままの関係では連携はうまくいかないと思います。なぜならPPP的な取り組みによる効果を目指す上で大事な前提は「違いの受け入れと対等な立場」を認識することだからです。
例えば、法や条例の運用における裁量や実行は行政が行うもので民間が制御できるものではありません。しかしそれは「役割(や機能)の違い」なだけであって、それぞれの能力の違いに由来するものではありません。こうした違いの背景や根底を「正しく」認識しつつ、一方で、それぞれが持つ能力や機能、姿勢を認め合い、尊重し合うことを以って「対等な関係」であることを共通理解とした上でなければ、共通の目的に向かって進むためにお互いが持てる力を出し合うことはできないと思うのです。

「与えられた役割と持てる能力が違う主体同士が対等な関係で場に立つ」という共通理解を抜きに、そもそも「最も効果・効率の高い官民の役割分担」の議論も始まることはありません。

PPP的施策と考える視点
重要なのは領域の自覚とリスク分担設計

厚生労働省ホームページに開示されている『「地域包括ケアシステム」事例集成』の中に、「地域包括ケアシステム構築に向けた道筋」として

①「何のためにやるのか」(目標)を共有することが必要
② 時間が掛かるからこそ、「仕組みをつくる」ことが重要
 「仕組みをつくる」ために必要な 5 つのこと
  (1) 情報発信と双方向のコミュニケーションを行う
  (2)地域の目指す姿について合意形成を行う
  (3) 専門職による質の高い支援・サービス提供のための基盤整備を行う
  (4) 不足する支援・サービスの把握と解決のための場をつくる
  (5) 多様な担い手の育成・サービス創出を促す

事例を通じて、我がまちの地域包括ケアを考えよう「地域包括ケアシステム」事例集成 より

と書かれています。

一方、先ほども書いた「当初、自治体から疑問の声もあった」といったことが生じる背景には、取り組みの目的共有が実際はうまくできていないとか、5つの構成要素の提供における各主体の「役割」の自覚やリスク分担設計がうまくできていないとか、あるいは相手が持つ能力や姿勢について相互理解が不足しているといったことが考えられます。
上記の(1)から(5)は、手順としてはその通りだと思うのですが、地域包括ケアシステム構築における構成要素(住まい・医療・介護・予防・生活支援)の間には、建築・医療・福祉といった従来は独立した領域の「隙間」の存在が考えられます。その隙間を繋ぐ、言い方を変えれば、隙間に落ちた問題への対処のための「リスク分担の設計」抜きに連携はうまくいかないと思います。

この点でも、地域包括ケアシステム構築はPPP的な取り組みの原則「リスクとリターンの設計」「契約によるガバナンス(=つまり、事前の想定とその対処をできるだけ明確にすること)」が求められる施策なのだと思います。


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