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PPP的関心【地方自治体のSDGs債発行】

地方公共団体による公的サービスの提供実現は「税金」という財源によって支えられています。ごく大雑把に捉えて、地方自治体の財源は固定資産税や住民税などからなる自主財源、国税からの再配分である交付税交付金により構成されています。自治体に担税力の高い住民や法人がいるとか、市域内の場の魅力(ヒト・モノ・カネのフローが活発である)が価値(地価)に反映された状態が続くことが、公的サービス提供の持続可能性につながると考えることもできます。
公的サービス提供の持続可能性が担保された状態を作り出すために先行投資的で長期の資金が必要になる場合、自治体経営では地方債などで「投資的経費」を賄うことがあると思います。
今回はたまたま見つけた自治体によるSDGs債の発行の記事から先行投資的かつ長期資金の獲得とPPPの観点で気になったことを書きます。
*なお、私の金融商品関連の知識が乏しいことで不十分な記述や不理解な点があるかもしれませんが、あらかじめご容赦ください。

自治体「経営」における税金以外の財源確保

以前の記事(まちづくり分野に用いられるSIB事業)でも紹介したように、自治体が自治体「経営」の一環としてサービス向上施策の開始=新たな公的サービス提供にあたって民間資金を導入アイデア例として紹介しました。

サービス提供者が小規模で自ら先行的に資金を出せない場合などでは(成果連動型での)サービス提供自体が成立しにくくなります。
そこで、成果連動という運営手法でサービス提供の効率向上と効果の拡大を確保しながら、資金不足によってサービス提供者が登場しないという問題を解決するために投資家などからサービスの提供に必要な費用を「事前資金」として集めサービスを実施し、成果に応じて後から行政が(サービス提供者ではなく)資金提供者に報酬を支払うという仕組みSIB・・・
PPP的関心 記事から抜粋

税以外の資金調達の一つ。「地方債」

先ほどのような民間資金の導入による事業開始以外にも、冒頭に書いたように「先行投資的で長期の資金が必要になる場合、自治体経営では地方債などで「投資的経費」を賄うことがある」わけですが、財務省のホームページで改めて「地方債」について確認すると、

概要の記述から" 地方公共団体が一会計年度を超えて行う借入れ "のこと、つまり「長期の資金」を賄うための調達方法だとわかります。
またその資金使途は" 原則として投資的経費(建設事業関係の経費)の一定部分に充てられ "とあり、「先行投資的(な意味合いがある)な使われ方をする資金だとわかります。

■原則として、公営企業(交通、ガス、水道など)の経費建設事業費の財源を調達する場合等、地方財政法第5条各号に掲げる場合においてのみ発行できる
■地方債を引受先の資金面から分類すると、公的資金(財政融資資金、地方公共団体金融機構資金)及び民間等資金市場公募資金*、銀行等引受資金)に大別
*平成14年3月以降,全国型市場公募に加え住民参加型市場公募地方債も発行
事業別に分類すると、一般会計債においては公共事業等、教育・福祉施設等整備事業、辺地及び過疎対策事業等、公営企業債においては水道事業、交通事業、病院事業・介護サービス事業等に分類
財務省HPより抜粋、編集

自治体によるSDGs債の紹介記事

以上のようなことを確認したわけですが、そもそも今回のPPP的関心で記事にしようと思った発端は「SDGs債」という言葉でした。

拡大する自治体SDGs債
■公的事業資金の新たな調達法として、SDGs債を活用する自治体が増えている。債券を発行するのは都道府県や市区町村。使い道となるSDGs事業を明示して民間から投資を募り集めた資金を当該事業に充てるのが基本的な仕組み
■SDGs債は資金の使途に応じて、①グリーンボンド(環境債)、②ソーシャルボンド(社会貢献債)、③サステナビリティボンド(持続可能債)――の3つに大別
■①のグリーンボンドは、主に地球温暖化対策や太陽光発電、再生可能エネルギーなどの環境系事業を対象としたもの。
■②のソーシャルボンドは子育てや介護支援、地方創生、災害復興といった社会問題の解決を目的とした事業資金となる。
■そして、環境系事業、社会問題解決事業の双方を対象にするのが③のサステナビリティボンドだ。
記事より抜粋

地方債の一つ

例えば、住まいのある神奈川県では、「県債」案内の中で「市場公募債」と「グリーンボンド」が併記されていました。つまり「SDGs債権」も市場公募される「地方債(県債)」の一つだとすぐに理解できます。

神奈川県ホームページより抜粋

県債の中で「分ける意味」

ところで、神奈川県の例では第255回公募公債(10年債)の表面利率0.115%に対して、第2回5年公募公債(グリーンボンド)の表面利率は0.001%であり投資家にとってはリターンに差があります。素人考えではこれは発行主体にとっては集めにくい(投資家にとってリターンの魅力が低い)債権だと思います。また、グリーンボンドやソーシャルボンドには「第三者機関の評価」による原則への適合確認を受けることなどをはじめとする「SDGs債に特有コスト」があるようで、発行主体にとって手間のかかる起債に映ります。
それでもSDGs債を起債するのはなぜか。記事では資金が集まる対象としての「ESG」への注目と発行主体の「姿勢」のアピールとあります。
個人的には、姿勢アピールのためのコストとして手間が見合うのか?合理性の整理がつきませんでした(あくまでも素人ながらの感想ですが)。

■SDGsファイナンスに対する社会的な認知度が向上してきたこと。世界でESG(環境・社会・企業統治)投資が拡大している。自治体も無関心ではいられない。
■もう1つは、菅義偉前政権が国内の温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするといった脱炭素社会への転換を明確に打ち出したこと。こうした流れの中で、各自治体には、SDGsに積極的に取り組む姿勢を広くアピールしたい
新・公民連携最前線(日経BP)記事より

資金使途とリターン原資

起債をするということは、例え0.00数%といえども償還の際にはリターンを付加して返すわけです。で、その際の「原資は?」と思ったことがもう一つの気になりポイントです。

通常の地方債では原則として公的サービスの継続やインフラ整備(新増設、更新)に使われる、SDGs債では「環境系事業」や「社会問題解決を目的とした事業」の資金に充当されると確認しました。
神奈川県に加えて、東京都などでも資金使途や資金投下によって充実させる設備や充実するサービスなどに関する情報は見つかりましたが、それらの施策が将来の償還原資となる地域経済拡大にどの程度貢献するかや将来の支出をどの程度抑制するのか、と言った将来価値に関する言及はほぼ見当たらなかったように思います。

ここで疑問に思うのは、いずれの種類にしても追加的な公共サービス(安全を高めるとか環境を良化するとか)を投じた以上、例えば税金を納める市民や法人が増えるとか、市域に投資が増えたことにより法人税や事業税、地方消費税などが増えるといった「成果の見通し」なしに償還の確実性があるのかが気になりました。

もちろん地方債は「国の裏付け」もある安全債権と言われ、実際に自治体の債権が紙屑になるようなことは想像しにくいのですが、将来の国や自治体の「経営」観点において収入=税収の右肩上がりの見通しを簡単につけることができない可能性がある以上、追加的な公共サービスによる「見返り」想定を明確にしておくことは必要だと思うのです。
加えて、公会計(=自治体経営バランスシート)の観点でも、起債して集めた長期資金を資産(公共インフラ等)に変える以上、新たな資産が将来のお金にどう繋がるかわからなければ投資もできないのでは?とも考えます。

PPP的関心からみた「SDGs債」と「住民参加型市場公募地方債」

(強引ですが)「地方創生」「地域活性化」に資する PPP に引き寄せて関心を持ったことも自分へのメモ的に併せて書いておきたいと思います。
「住民参加型市場公募地方債」についてです。

住民参加債の制度目的には、以下のような点が挙げられる。 
– 住民の行政参画意識の高揚
– 住民に対する施策のPR
 – 資金調達手法の多様化 
– 個人金融資産の有効活用 
– 市場公募化のためのノウハウ習得 など

現状認識
➢足許の超低金利状況下においては、特に調達コストの面から、住民参加債を発行するインセンティブが働かなくなっている 
➢ 一方、資金調達の効率性の観点だけでなく、長期的・安定的な調達のための多様な投資家層の確保という観点からの検討も必要
➢ 住民参加債が有する①住民の行政参画意識の醸成、②対象事業に係る住民へのPRといった、他の地方債にはない「意義」を重視することも引き続き重要
総務省資料より抜粋

グローバルで見たSDGsという自治体の「社会性における意義」と比較するものではないと思いますし、上記でみた自治体のSDGs債による資金調達を否定するものではないですが、住民参加債に期待される「行政参画意識」や「対象事業への住民PR」という価値は、単なる資金調達の方策である以上に「地域貢献の表明」を促すために使える策では?と関心を持ちました。

おまけを目当てにして「いま自分が住んでいない地域」にお金を回すようなことではなく、自治体が地域市民にきちんと地域の将来像を見せて、それに応じた市民が「いま自分が住んでいる地域での自分の将来のために」投資をし、実現に向けた方法、投資、進捗、成果が適切に「IR」レポートされる。これは本来的な地域行政と市民の対話のあり方かもしれません。


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