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PPP的関心【『地域経営のための「新」ファイナンス -「ふるさと納税」と「クラウドファンディング」のインパクト-』を読んで】

今日の記事では、米英で活用される、地域コミュニティの課題解決に特化した活動の資金調達手段CCF(シビッククラウドファンディング)について、地域課題解決のためのソーシャルファイナンス手法として、ふるさと納税の仕組みを使った日本版CCFの現状と可能性について著されています。地域の課題を解決するための起業に必要な資金調達における「官民の役割分担の考え方、官にとって民間と連携した新たな手法」という点から、まさにPPP的関心としても興味深いものでした。

『地域経営のための「新」ファイナンス -「ふるさと納税」と「クラウドファンディング」のインパクト-』の紹介

2021年4月の出版されたこの書籍の著者は神戸大学大学院経営学研究科教授である保田 隆明氏です。保田氏は、実業(大手外資系投資銀行、ベンチャーキャピタルファンド)とアカデミック(金融庁金融研究センター、小樽商科大学准教授、神戸大学大学院経営学研究科准教授)の両方の経験を持つ研究者です。こういう産官学にまたがる経験を持つ方の方の本と言う点でも関心を持ちました。


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この書籍の冒頭には、以下のことを目的としていると記されています。

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本書の構成
第1章 今こそ地域に経営視点を
第2章 購入型クラウドファンディングと中小企業,地方企業
第3章 購入型クラウドファンディングと地域金融
第4章 地域課題解決におけるソーシャルファイナンスの役割
第5章 デジタルトークン・地域通貨の可能性と課題
第7章 地域事業者育成支援効果,ビジネス力向上策
第8章 地域アントレプレナーシップの創出に向けて
第9章 地方における移住・定住政策と関係人口増加策
第10章 ふるさと納税を契機とした地域金融機関の機能強化の可能性
第11章 今後目指すべき地域経営の姿とは

注目ポイント。「まちづくり(事業)への効果」

PPPとは、公共(公的)サービス提供や地域経済の再生など、何らかの政策目的を持つ事業が実施されるにあたり、官民が目的決定施設建設・所有、事業運営、資金調達などで(1)リスクとリターンの設計、(2)契約によるガバナンスを原則として、役割を分担して行うことです。

日本版CCFでは、○具体的な使途と効果(目的)を明示した「プロジェクト」として示されること、○プロジェクト化する段階で地域の現状や将来にとって優先的(重要)な課題が洗い出され優先順位付けされること、が効果であると示されている点は、PPPの定義を踏まえても共感できるメッセージだと考えます。

また、行政機関にとっては予算制約(人口構成の構造的変化による扶助費の増大や税収の伸び悩み・低下等)によって、ともすると、目的設計における「効率=成果(政策目的の実現度)÷投入(費用)」の簡単な式について、効率的であるか効果的であるかを間違う可能性があるのではないかと個人的には考えます。つまり投入を縮小すること(財源カットや事業削減)、或いは成果を一定として投入を減らすことで「効率的」との評価を表現することに注意が偏ってしまい、地域課題を解決する事業の推進を停滞・遅滞させる思考に陥らないかという懸念です。

これについても日本版CCFが「前向きなまちづくり」に思考を巡らせる契機になると言うメッセージに共感できました。

PPP的取り組みにおける「課題設定」の重要性

一方で、筆者は日本版CCFの潜在的な課題として、以下のような指摘をしています。

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これらの指摘は、言い換えると、地域の持続可能性を高めるために「経営」視点を取り入れるべく、(解決すべき)課題の設定と(事業活動の)目的を決定する過程において、他人(行政)任せにしないことと過程のオープン化(透明性)を重視する考え方が重要だということです。これは、まちづくりビジネスを学生さん達と話をする中での私自身の課題認識とも通じるところです。

また、本の中でも著されていますが、そもそもクラウドファンディング手法はマーケティング上の販路開拓、知名度向上、そもそも事業に対する共感=ファンを創り出すという効果をどう活かすかという点で、行政による日本版CCFの活用では自治体内のマインドセットを脱却できるか、という点も地域課題解決のための(PPP的取組による)事業組成にソーシャルファイナンス手法を導入する上では重要なことだと考えました。

地域経営とソーシャルファイナンス

ここまで細かな内容まで触れることはしませんでしたが、まだ他にも著者による独自調査から産官学+金、つまり既存の金融機関の取り組み姿勢や現状理解に関する調査は、個人的にとても興味深いものでした。「まちづくり」に関わる上で、官民双方ともに地域を「経営」する視点を持つ重要性認識が高まる中で、事業を起こす際の「新しい」ファイナンス手法の理解を深める学びは継続的に取り組んでいきたいものです。

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