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PPP的関心【情報のアップデート。英国LEP制度に関するレポートを読んで】

社会人大学院でPPPに関する学びを修了して早くも丸7年が経過しました。物事の進み方が早くなっている昨今では7年も経つと新しい考え方や新しい概念が次々に示されます。自身の理解や常識もできる限りアップデートしていかなければなりません。そんな時に「英国LEP制度」という言葉を目にしました。今回はそのレポートを読んで考えたことについて書いてみました。
*本文とはあまり関係ないですが(笑)、写真は2015年に訪問した際に撮影したテート・モダン@ロンドンの外観。

英国LEP制度の導入による、地域振興施を目的とした民間主導の官民連携

レポートによると、LEP(Local Enterprise Partnership)制度とは以下のようなことがポイントとして記されています。

・従来のトップダウン型(行政主導型)連携のネックとなっていた財源制約(政府からの予算拠出であった)点や意思決定制約( 組織メンバーの任命権が政府サイドにあった)問題をクリアして、地域の経済実態を理解している地方自治体や金融機関等の意見を反映させやすくする
・組織面では、地方自治体と民間企業の協働組織(構成メンバーのうち半数以上は民間企業が加入、代表者は民間企業出身者であることが条件)が地域産業振興策の企画立案から実行支援までの一連の施策を民間企業が担う
・活動面では、地方政府単位=自治体の範囲から、産業振興施策の対象圏域すなわち実態経済圏域を活動範囲をすることになった
・組織の立ち上げから運営が軌道に乗るまでの一時的な措置としての政府の基金拠出はあるが、基本的には自己調達、独立採算

「英国LEP(Local Enterprise Partnership)制度の導入 による官民連携
日本版LEP(J-LEP)の導入に向けた先進事例の概観」より抜粋、要約

日本での地域におけるPPP的な取り組みに擬えれば、「広域連携で公的サービスを構築する際に、政府が民間企業が主導するサービス提供事業をバックアップする」制度、というような表現ができるのではないかと思いました。

制度の考え方。日本における受容の可能性は高い

レポートにある『Regional Development Agency(以下、 RDA)と呼ばれる行政主体の地域開発公社』による施策推進から、組織組成や施策の意思決定に行政組織が関与しない方向に進むことについて、日本でも(先取的な地域では)そうした方針や姿勢は既に示されているのではないかと思います。
もちろん、制度としてそのような組織や組織運営を裏付ける、バックアップするということについては先進性を感じました。
一方、レポートにあるRDA(地域開発公社)からLEP制度へと施策推進主体が変化する流れについては(乱暴な例えですが)日本での第三セクター経営の失敗からの「挽回」議論と本質的には同じではないかと思いました。

第三セクター経営の失敗の背景にあることを私なりに整理すると
1.「事業」に関する意思決定の制約(議会、民意)
2.「事業」に関して官製経営陣の経営経験不足と不充分な意思決定
3.1や2から生じる過剰(市場理解不足)な計画とソフトバジェット
にあると考えますが、こうした状況を挽回する取り組み方針として国内でも経営陣の民間登用やソフトバジェットを防止する制約などに取り組むことの重要性は気づかれていると思います。

そうした理解からも「広域連携で公的サービスを構築する際に、政府が民間企業が主導するサービス提供事業をバックアップする」ために、紹介された英国LEP制度、あるいはその考え方が受け入れられる素地は十分にありそうだと思いました。

LEP「的」な、官民出資企業に民間経営者が就任している例
〜つくばまちなかデザイン株式会社〜

この会社はつくば市と地元民間企業(メジャー出資は民間企業)による出資で設立され、その経営は民間企業出身者が担っています。
設立目的に書かれている『まちなかの人と人、コトとコトをつなげるプラットフォームとして、つくばの”まち”に誰よりも愛着を持ち、“まち”の変化を先取りし、ここでしかできないコトで“多様性を享受する”ことを目的に、当社を設立』ということからは、広域連携のためとまでは明確には言い切れませんが、地域経済振興やヒト・モノ・カネの流れを活性化させる基盤となる活動に取り組むという点で、英国LEP制度「的」な組織作りは既に日本でも実現しつつある、その一例と言えると思います。

民間主導のまちづくりビジネス、は既にある

ちなみに。日本でも官民が連携した施策の際に「民間主導の地域経済振興策(事業)」を「行政が環境整備などで支える」という考え方自体は決して新しいものとも言えない、ということにも触れておきたいと思います。

衰退したまちなかに適正に投資し短期間に資金回収する経済合理性のあるやり方、すなわち持続可能な事業を興すことが求められています。そのためには、事業企画力、事業実行力、事業運営管理力が必要ですが、この力は民間側にあります。官は、積極的にパブリックマインドと事業力を併せ持つ民間組織と手を組む必要があるのです。

同時に行政サービスに対する市民の質的な欲求はますます高まる一方です。自治体が財政難だからといって、サービスの質を低下させることは困難な状況です。公共施設の経営を例にすると、運営・管理コストを低減しながら、公共サービスの質を上げなければならないということが課題の本質なのです。ただコスト低減だけすればいいというのではありません
そこで、本質的な公民連携、民間主導で公民が連携することが求められているわけです。

新・公民連携最前線 特集「稼ぐ公民連携」基本十カ条」
第十条 公も民も変わらなければならない  より抜粋

ここで紹介したリンクの記事は7年前、2015年の記事です。清水さんは私たち院生に対して当時(いや、それ以前)から記事で書かれている考え方を伝えてくださいました。
その経験があるので今回の英国LEP制度の「考え方」の紹介については新たな考え方を知ったという感覚にはならないのですが、それはともかく、このレポートで制度の存在や背景にある考え方が広がることで、民間主導の官民連携組織において民間がトップに立って地域の振興策や公的サービス提供が進められる、そんな体制が今以上に普及するようになる…そんなきっかけになれば良いと思いました。

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