PPP的関心【時間とともに"顕在化"する?「朽ちるインフラ」問題】
筆者も所属する東洋大学 大学院 公民連携専攻の 根本教授が"朽ちるインフラ"という表現を使い、高度経済成長期に集中的に整備された学校や橋梁などの社会資本の更新投資時期がいっせいに訪れる前に、適切に維持管理がなされなければ社会資本の老朽化が進み、いずれ損壊して市民の生命と財産を危機にさらすことになりかねないという警鐘を鳴らした書籍「朽ちるインフラー忍び寄るもうひとつの危機ー」が出版されたのは10年前、2011年でした。
書籍では更新、再生するための追加投資には莫大な予算が必要になることを想定し、少ない予算でいかに老朽化問題に対処すべきか、(当時の)先進的な取り組みを紐解きながらインフラ崩壊を防ぐ知恵・ノウハウについて解説されています。
この書籍の出版後10年目にあたる年の年末に、” 老朽化した橋「修繕終えるまで20年以上」国交省新試算12月 ”というニュースを目にしました。今回はこの記事を目にして思ったことを書きたいと思います。
時間経過とともに増加?
社会資本の維持管理・更新の必要性
先のNHKのニュース記事には
とあります。
これは、5年に1回義務つけられた「次回」の点検が実施される5年の間に前回は問題がなかった(と認識されていた)箇所の劣化が進み、破損状態が確認されたことを意味し、つまり、この先も時間の経過とともに対策すべきインフラ件数の増加はほぼ確実に起こり、対策の方法次第ではその対策費用も増加する可能性が見込まれることを意味しています。
社会資本の維持管理・更新に関する情報の再確認
上記リンクは「社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト(国土交通省)」です。サイト内には社会資本ごと(道路、河川、砂防、下水道、港湾など)に老朽化の現状に関する情報が整理、発信されています。
建設後50年以上経過する主な社会資本の割合についても示されていますが、例えば、道路橋は総数約73万橋(橋長2m以上の橋、建設年度不明橋梁の約23万橋については、割合の算出にあたり除いている)に対して2018年3月時点では建設後50年以上経過する道路橋の割合は約25%だったのが、2033年3月には約63%になると示されています。
維持管理・更新に関する優先順位検討の過去と今後
先ほども見たように、これまで整備されてきた多様な社会資本の維持管理・更新に関わる費用の将来推計もなされています。そこには「やり方」を工夫することで維持管理・更新に関わる費用を圧縮する検討とその見立てが示されています。
整備された瞬間から発生する維持管理。その検討・実施の優先順位は?
そもそも、社会整備資本は整備した瞬間から維持管理が発生することは当然のことです。
しかし、社会資本整備が進行する地域と未だ整備が不十分な地域との格差を埋めるべく、既設の維持管理よりも新設に予算配分や優先検討が偏っていたことから、従前には整備後の維持管理について「十分に」加味されていない計画だった可能性が考えられます。
「十分に加味されていない可能性」と書いたのですが、もちろん、整備後のインフラの点検などの維持管理行為は行われていたはずですし、劣化状態の現状確認も行われていたはずです。ただし、劣化の進行を防止するといった範囲までの計画であったか?については不明です。少なくとも高い優先順位であったとは言えないのではないかと思います。それは「事後保全」という言葉に表れています。
「事後保全」とは以下に示されているように「不具合が生じてから」対策を講じるという意味で、つまり、壊れたら使えるように対処するという前提があったと考えられるわけです。ゆえに劣化進行を防止するといった範囲までが十分に加味されていない可能性やその優先順位も高くはなかったのではと考えざるを得ないところです。
ただし、将来推計の記述からも確認できるように” 「事後保全」から「予防保全」へ切り替える “ 方針が既に打ち出されています。また、他の記事でも触れたように社会資本等の維持管理に関する取り組みとして、各自治体では「公共施設等総合管理計画」が策定され、予算や対処の優先検討もされていることで、今後、インフラ長寿命化のための「予防保全」施策が具体化することになってゆくものと考えられます。
財政制約の中でも予防保全を確実に遂行するために先進的な技術の採用が不可欠
予防保全にしても事後保全にしても、実行のためには予算措置と体制構築が不可欠です。
しかし、現在の多くの自治体が置かれた財政状況は収入源支出増の中、そのやりくりは厳しいはずで、予算措置と体制構築も簡単ではないと思います。
例えば、人口減少や高齢化による住民税等による歳入減少の見通しの中で、義務的経費(人件費、扶助費、公債費)とりわけ扶助費(生活困窮者、高齢者、心身障がい者などに対する支援に必要な費用)の負担は逓増傾向です。
この義務的経費の逓増に圧迫され、投資的経費(普通建設事業費、災害復旧事業費種社会資本整備など)には制約がかかります。
上記のような厳しい財政状況と投資的経費の制約の中でも、未だに新規整備に優先配分がなされるケースも聞きます。そのような状況ではインフラ維持管理への予算配分や技術を有する人員確保の難易度も上がり、維持管理計画の遂行自体が難しくなる可能性も生じかねません。
先ほども「新技術やデータの積極的活用、集約・再編等の取組による効率化を図り、持続的・実効的なインフラメンテナンスの実現を目指します。」という国交省のサイトにあるコメントを紹介しましたが、センサー技術の活用で予防の必要性を感知するといった技術活用に加え、市民の力も取り込んで情報を整備するといった取り組みも既に始まっています。
例えば、以下のようなものもその一環です。
この先のインフラ長寿命化、維持管理、更新にあたっての技術革新、PPP的な行政と市民の連携による問題解決がますます進むことで、朽ちるインフラ問題の影響が少しでも小さくなることを期待したいです。
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