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PPP的関心2023#21【『未来をつくる図書館』を再読して】

講義での話題提供のために『未来をつくる図書館』(2003)を再読する機会がありまして。
改めて読んでみて一つ関心を持ったこととに、2003年初版本の最後「むすび ー 日本の図書館を進化させるために ー」で示されているいくつかの情報(例えば国際比較とか)の「いま」ってどうなんだろう?という自分の気づきメモ的に書き留めておこうと思います。
・・・ということで大した話ではありません、今回は。

図書館後進国?

表「G7各国との比較」から明らかなように、日本は図書館「後進国」である。日本には2,655館の公共図書館があるが、人口10万人あたりの割合で考えると、日本は2.1館であるのに対して、アメリカは58館である。他の国々との差はさらに大きい。日 本はドイツの1/8、カナダの1/5、イギリスの1/4に過ぎず、それどころか、下から二番目のイタリアに比べても半数ほどだ。
そして、表に示していないことだが、日本では依然として55%の町と 84%の村に公共図書館がないのである(「日本の図書館2002」)。

「未来をつくる図書館」より引用
「未来をつくる図書館」より引用

「日本の図書館統計」(日本図書館協会)というのを調べてみると、2021年度時点の公立図書館数は3,305館だそうで、本の中に示された数値(たぶん2001年の数値)と比べ施設数は増加しているわけですが、人口10万人あたりの施設数という点では大きな変化をもたらすほどではなさそうです。
また、自治体別では未設置の市区は8、町村は386ということで未設置の町村割合は41.7%と見た目の数値では改善しているように見えますが、きっと平成の大合併で母数となる町村数が減ったからだろうと推測できるので地域という視点で見れば実態は変わっていないかも、です。

加えて公共施設の面積を抑制的にする大きなベクトルもある中で図書館施設数を国際比較を基に増やそうと考えるのも難しそうです。

電子図書館サービス

アメリカ図書館協会の調べでは、全米95%以上の公共図書館がインターネット端末を無料提供しているのに対して、 日本では全く提供していない図書館が65%にものぼる。持ち込みパソコンをインターネットにつなげる図書館は0.8%と極めて少なく、 データベースが提供されているのは4.8%に止まり、情報リテラシーの講座を見ると94.8%で行なわれていない(全国図書館協議会「公共図書館における電子図書館のサービスと課題に関する実態調査報告書」 2002年)。

「未来をつくる図書館」より引用

この切り口は、図書館が「情報ネットワークへのアクセス拠点となる機会を与える、機会を広げる」場所となれるか?を問いかけているのだと思いますが、この問いに対する「いま」を知るのにズバリと当てはまる調査や統計に到達できませんでした(自分の検索リテラシーの問題かも。あったら教えて欲しいところですm<_ _>m)。

文部科学省のホームページ内で 教育 > 社会教育 >図書館の振興というページにある過去調査をみても、「これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざして−(報告)」(2006)の一部に問題意識として" インターネットの利用機会や活用能力には相当の格差があり、その是正を図るため、公共機関が、利用機会の提供や情報リテラシー教育を行うことが必要 ”といった記述は見られますが、書籍から20年、先述の調査からでも17年経過して、最新はどうなっているのだろうか、興味が高まるところです。

一方で、いろいろ読んでいると「電子書籍」の導入についての関心や実態に注目した記述には出会うことができました。
図書館の振興というページで見つけた「平成27年度「公立図書館の実態に関する調査研究」報告書(平成28年3月)」の概要には

(電子書籍)
Ⅱ-5.では、電子書籍の提供状況について報告している。電子書籍や電子化した資料を提供 している図書館は全体の 16%程度であり、実際に提供されている電子資料のタイトル数の中央値は 88タイトルであった。また、電子資料を提供する図書館のうち、デジタルアーカイブに代表されるような郷土資料・地域行政資料・特別コレクション等をデジタル化した資料を提供しているのは 289 館(74.3%)であった一方、電子書籍サービスに代表されるような商業的に流通している電子資料を提供しているのは 145 館(37.3%)であった。 このような結果から、日本の公立図書館における電子資料の提供はいまだ黎明期にあるとい えるだろう。電子資料の提供を行っていない理由、ならびに、電子資料を提供する際の課題を 尋ねたところ、いずれも予算の確保が第一の問題とされた。また、「コンテンツが充実していない」 や「利用者のニーズがない・不明」といった外的要因も挙げることができる。

平成27年度「公立図書館の実態に関する調査研究」報告書

あるいは「公共図書館における、電子図書館サービス導入の実態と課題、新型コロナウイルス感染問題による図書館の意識の変化について」(2021,長谷川)を参考にすると

・アメリカの公立図書館や、日本の大学図書館でも「電子書籍貸出サービ ス」の普及は9割を超えて一般化
・電子書籍貸出サービスの普及は 2020 年 7 月 1 日現在 で 100 の自治体であり、図書館を持つ 1,380 自治体からみると導入率は 7.2%

といった記述にも出逢います。

ただ、蔵書の電子書籍化というのは素人感覚からすると、書籍の問いかけや文部科学省のHPにある問題意識にある「情報ネットワークへのアクセス拠点となる機会を与える、機会を広げる」場所となれるか」「インターネットの利用機会や活用能力には相当の格差があり、その是正を図るため、公共機関が、利用機会の提供や情報リテラシー教育を行うことが必要」という点においては手段の一部についての確認だけであり、そもそも情報リテラシー教育など指摘される問題の解消に到達できないのは、図書館サービスをどのように提供するかという行政サービスサプライヤーの視点が、いかにユーザーニーズやユーザー利益を増大させるかという視点よりも優先されていそうだという印象が残りました。

デジタル化と本来的な機能の再認識

2022年7月のPPP的関心の記事では「民設公営」型PPPによる設置・運営の例の紹介や「図書館と同種の施設」の存在と知的好奇心や専門性への期待を集める場という役割について書いています。

その時にも書きましたが、予算制約や地域政策(都市経営)課題としての優先順位など現実を取り巻く環境は一筋縄ではいかないことはもちろんです。

今回、たまたま講義の中での話題として『未来をつくる図書館』を再読したわけですが、書籍の中でも指摘されている

日本の公共図書館、そして自治体などに望むのは、市民の情報ニーズを把握し、それに沿ったサービスができるよう編集能力や企画能力を持つ司書を配置することだ。多くの図書館は、 情報資源を揃えて並べて利用されるのを待っているだけ、という印象を持たざるをえないが、 情報は単に存在するだけでは、その価値をフルに活かすことはできない。
本来公共図書館は、市民のためのリサーチセンターのはずである。何をするためにも情報を収集し分析することはアクションの第歩。 そのために、図書館は多様なメディアによる網羅的な情報のストックをもち、司書による情報ナビゲーション機能があるべきである。数ある情報の中から、長期的な視点に立ち、市民に役に立つという視点から、情報を収集し、整理し、 検索しやすいように編集する作業は、公共的な役割を持つ図書館だからこそ可能になる

「未来をつくる図書館」より引用

といった視点について初版から20年を経て改めて考え直す機会とし、私の日常的な関心をもってさらに言えば、民間が行政に「市民のためのリサーチセンター」機能を提案するような動きの高まりにも期待したいところです。


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