見出し画像

PPP的関心【1つの施策(チーム)で複数の社会課題を解決する】

PPPによる地域の社会課題解決を図ろうとするとき、一つの取り組み、一つのチームが一つの課題にだけ向き合いその解決を図ろうとするのは非効率です。以前の記事『「住民が担い手」となる交通体系という記事から「公的サービス」提供の役割分担を考える』の冒頭に記した「PPPの定義」の中で「広義の定義」として示したうちの一つ「最も効果・効率の高い官・民・市民の役割分担を検討すること」を踏まえれば、一つの施策、一つのチームが行う活動で複数の地域社会課題の解決を目指すことはPPP的取り組みでは前提です。

「よかまちみらいプロジェクト」@糸島とは
MaaSで「地域住民」+「学生利便性」「観光客移動」を支援

■半島のほぼ中央には、2005~2018年まで13年かけて移転を終了させた、単一キャンパスでは日本最大級の広さを持つ九州大学があり、近年は若年層の人口増加傾向も顕著
■糸島半島エリアは、福岡市の中心部から車で約30分、福岡空港へも直通電車が利用できるアクセスの良さに加え、新鮮な海産物を味わったり様々なアクティビティも楽しめたりすることから、観光客だけでなく県内外からの移住者も急増。
■人口は緩やかに増加する一方で高齢化率は29.72%(2021年7月末現在)となり、世帯人員が減少し核家族化も進行
■人口は基本的にJR線の駅周辺に集中しており、沿線南部の農地が広がる山側の住宅地区に関しては、特に高齢化による人口減少が進んでいる

つまり、全体としては人口増や交流人口も増えているものの、交通インフラの偏在(鉄道沿線とそれ以外)によって、高齢化する市民の交通弱者化や、観光客や学生、学校関係者の利便性問題という複数の地域課題(≒解決したいこと、よくしたいこと)を抱える地域だということです。

PPP的注目。地元企業が率いるコンソーシアム
本業の経営資源・移動サービスを活かした地域貢献

この社会課題の解決に取り組む主体が地元企業であること、取り組む手法と事業領域が元々の事業であること、言い換えれば得意技を組み合わせた企業や団体の集まりであることもPPP的関心としては注目です。
地域社会課題の解決に向けて、志高く自社の新規事業として課題解決に挑むことを全く否定するものではありませんが、元々「資源」を持っている同士が手を組んでコトにあたる方が展開も早い分効率的で効果も大きくなるはずです。

■2020年10月結成のコンソーシアム(≒共同事業体)「よかまちみらいプロジェクト」は、地域でバス事業やタクシー事業を展開していた昭和グループを中心とした地元企業を中心に、糸島市をはじめ地域の様々な産業団体や九州大学などにもプロジェクトパートナーとして参画をしてもらい、元々の得意技である輸送事業や自動車関連事業、サービス業を核に、複数の交通機関を連携させる「マルチモーダル」の構築に挑むプロジェクト

PPP的注目。自社と地域の持続可能性を同時に高める「連携」発想

これまで公共交通サービスを提供してきた昭和自動車としても、ドライバー不足の課題を解決していかなければならない。「今までバス事業は、網の目ように細かいエリアまで網羅していた。今後はそういうスタイルではなく、市内中心部まではバスで誘導してもそこから先はいろいろなモビリティに繋げていくMaaS事業を積極的に進めることが重要になってくる」

記事中にある、このコメントも注目のコメントだと思います。
自社がこの先も経営を持続することは地域にとって必要な交通インフラを提供する事業者が生き残ることである、という考え方はまさにこの企業が社会的責任を感じていることが伺えます。その一方で、(自社の力だけで)網の目のように路線を張り巡らせることがサービスだ、という考え方にこだわらないところは、自社の持続可能性を高める上で現代的な発想だと思います。

自前だけで交通ネットワーク網をという発想は、過去の社会インフラ整備によく見られた、隣の市が市民ホールを持てば自分の市でも、隣の市がプールを持てば自分のところもという発想にこだわり、次々に設備投資をしたものの将来の運営負担を考えずに老朽化したインフラを目の前に困っている、そんな「過去の自前主義的な」自治体経営と共通するものがありますが、交通においても自前主義の未来が重なって見えますし、連携による期待効果とは大きな違いがありそうです。

自社(自分の地域)だけでやれれば良いが、解決すべき課題を見ると影響範囲が大きく複雑化(例えば糸島においては、交通弱者支援+観光利便性+事業者の持続可能性などそれぞれ別現象であるが根底の要因は共通課題…というような)した時代において、連携による解決策の方が効果が大きく効率が高いということだと思います。

MaaSと地域活性化の可能性

「よかまちみらいプロジェクト」では、日本版MaaS推進・支援事業(2020年度、国土交通省)にも選定されていて、オンデマンドバスの無償実証実験から有償化への展開、電動小型車のカーシェア、レンタサイクルの開始、ルート検索・決済アプリの提供といった取り組みを順次開始しているそうです。

(参考)MaaSとは
国土交通省のサイトでは
・地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス
・観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段
■2015年のITS世界会議で設立されたMaaS Allianceでは
・さまざまな形式のトランスポートサービスを、オンデマンドでアクセス可能な単一のモビリティサービスに統合
・公共交通機関、乗車、車または自転車の共有、タクシー / レンタカー、リース、またはそれらの組み合わせなど、顧客の要求を満たすためのさまざまな輸送オプションのメニューを提供

すでに始まっているのは移動手段の提供のシームレス化への第一歩、というところだと思われますが、この先、「サービスの統合」の中に例えば商業、物流、医療、教育などの生活関連サービスをどこまで統合(「連携」)できるか?をはじめ、MaaS施策の推進が地域活性化にどこまで貢献するのかは未知数なところもあります。でも、その分可能性を秘めた取り組みです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?