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ラブレター

拝啓

あなたは太陽のようにまぶしい人ですから、日本のギスギスした職場の空気には、きっと馴染めないでしょう。  私もまた、明るすぎるがゆえに、これまで多くの職場で浮いてしまい、仕事は長続きしませんでした。

(中略)

かつて、私が愛した人がいました。 その人のために、私は血眼になって働いていた時期がありました。
無宗教である私は、労働を美徳とは思えていませんが、愛する人のためなら、喜んで身を粉にして働けたのです。

私にとって、愛する人こそが、信仰に等しいものなのです。
神や預言者に勧められるからではなく、ただ、あなたを愛し、その傍らにいたいと願うばかりです。

私は、愛する人と抱き合って迎える静かな朝よりも喜びに満ちた瞬間を知りません。
そこにはお金も地位も名誉もなく、ただ2つの心臓が響き合うだけです。
いつの日か、あなたと眠りにつき、同じ夢を見られますように。 そんな淡い想いを馳せる日々が私の中で幾度も続いています。
あなたへの想いは、白昼夢のように、現実と幻想の狭間で、私の心を彷徨わせているのです。

あれ以来、私の前には何もない乾ききった日々と、どうにもならない曇った夜だけが過ぎ去っていきました。 今、あなたはどんな景色を眺めているのでしょうか?
こちらはもうすぐ、桜坂に桜が咲き誇ります。 やがて、花びらが散り、また忙しない日常が始まるのでしょう。

私たちもまた、歳を重ねて、この先多くのことを忘れていかなければなりません。

もうこの部屋にはいないあなたの、くすぐったい髪の感触。
その記憶が、私を何度もあの時へと引き戻すのです。
きっと、あの瞬間、あなた以外には何もいらないと感じていたからなのでしょう。
微睡の中で、あなたの手に触れたとき、この世でただ一つ、あなたの存在だけが確かだとも思いました。
しかし、それさえも忘れていかなければならないのです。

どうか、あなたが幸せで、平穏でありますように。

敬具


"Love is a promise; love is a souvenir, once given never forgotten, never let it disappear."

背景説明のないラブレターは文学のようにお楽しみいただけましたか?💌

*桜坂 東京都大田区

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