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ミスドにメリーゴーランドがなくなっても(完全版)

ミスドが好きだ。
それはもうはちゃめちゃに好きだ。
味が好きとか気に入ってるとかいうレベルではなく、私の人生の一部である。

もし、ミスタードーナツへの熱い想いを語るコンテストがあったら優勝できるのになー!
そう思っていた。
そうしたら本当に開催されるというではないか。「#ミスドの思いド」キャンペーンが。ミスタードーナツの50周年に寄せて、ミスドの思い出をSNSで投稿するというキャンペーン。

しかし応募要項を見て言葉を失った。「※上限は800文字までとなります。」

いやいやいやいや。私とミスドの思い出を800文字以内で書けと?
無理っしょ。
しかし文字数をオーバーすればそれまで、おそらく選考にすら乗らずお蔵入りだろう。そこで私は泣く泣く800文字に削ったエッセイをキャンペーン用に投稿した。

しかしこの際だから語らせてほしい。私とミスドの思い出を。
以下は文字数制限を一切無視した私とミスタードーナツの思い出である。

※投稿用800字以内バージョンはこちら

https://note.com/yaashi/n/nf5691484adb3


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ミスタードーナツは私にとって特別な場所だった。


20年以上前だろうか、かつてミスドの店内にはメリーゴーランドがあった。

少し薄暗い店内におしゃれな照明、キラキラと回る大きなメリーゴーランド。ドーナツの甘い香り。夢の国のようで他の飲食店にはない特別感があった。

街に出た時にはよく母が連れて行ってくれた。
当時の私は、給食を時間内に食べ切れず泣いている、ひ弱な子どもだった。
決まって頼んでいたのは、汁そば、氷コーヒー、D-ポップ。
シンプルな細い麺に優しい味の汁そば。具がネギしかないことでお馴染みの中華風麺だ。
一口サイズのドーナツが6種類入ったD-ポップ。
小食な子どもの私でもいろいろな味が食べられるのが嬉しかった。
母は決まって「これ、ママが若い頃からあるんだよ」と言って食べさせてくれた。「氷コーヒーって、ここでしか飲めないの。ミルクが濃くておいしいんだよね」
小学校低学年生にとってコーヒーは大層大人の飲み物だったが、牛乳とシロップの甘さで口当たり良く、大人になった気分で美味しく飲めた。
そして何より「ママが昔から食べていた味」と思うと、なんだか嬉しくてほっとした。
当時は、購入金額に応じてもらえるスクラッチカードがあり、カードの点数が10点たまるとオリジナルグッズがもらえた。
お弁当箱、手帳、ブランケット。
スクラッチを削ること自体も楽しかった。あと1点足りずにぐずっていると、隣の席のお客さんが端数のカードをくれることもあった。その時間が大好きだった。

あのおもちゃが欲しい、お洋服が欲しい、とわがままを言ってはダメだと怒られることが多かったが、「ミスドに行きたい」と言って却下されたことはなかった。
母もミスタードーナツが大好きだったのだと思う。



高校生になったある日、学校にいると担任が突然青ざめた顔で走ってきた。
「お母さんが倒れたって。今すぐ行ってあげなさい」

脳梗塞だった。
茫然自失として、病室の前の待合室で「ママはこのまま死んじゃうのかな」と思った。
若くてかわいい自慢のママ。一緒に買い物に行ったり、ドーナツを食べたり、もうできないのかな。

母は一命を取り留めた。
たまたま街に出てきている時の出来事だったためすぐに病院に搬送されたが、田舎の地元にいて搬送が遅れたら危なかっただろう、とのことだった。

それから母は少し変わった。
得意だった料理の味付けが変わり、性格も少し変わった。脳梗塞の後遺症らしい。
命に別条がなかったのは何よりだが、かつてのママがいないことは寂しかった。いつもまともで常識人だった母が、突然子どものように駄々をこねたり、突拍子もないことを言い出したりした。
しかしその後の通院の時には、近くのミスドに立ち寄るのが楽しみだ、と教えてくれた。
「モーニングセットで安くなるんだよね。朝に焼き立てのパイが出てきた時が嬉しいよね!」
少し変わったことがあっても、好きなものは変わらなかった。

寂しさを抱きながらも私はいたく安心した。


大学生になった私は、一人暮らしのアパート近くのミスドでアルバイトを始めた。

はじめてのアルバイト面接で緊張しつつ、何をどうしたらいいかもわからないまま向かった。

「好きなドーナツは?」
「……全部好きです」
「強いて言えば」
「ポン・デ・黒糖です。……あとDポップです」
「わかった。
 来週いつから来れる?」

はじめてのアルバイトで、常識のじの字もなかった私に当時の店長は厳しくも優しく色々なことを教えてくれた。
それまでもミスドが大好きだったけれど、知らなかった美味しい食べ方を、店長がたくさん教えてくれた。

できたてモチモチのポン・デ・リング。
フライヤーから揚げたばかりの湯気の立つポン・デ・リングを口にしたあの瞬間、きっと一生忘れない。

温め直さないほうがサクサクのまま味わえるフランクパイ。
ホイップクリームをのせたハニーディップ。
レンジで15秒温めたフレンチクルーラー。
凍らせたサクサクのチョコファッション。

どれも美味しくて感動した。

寒い冬の日は早朝シフトの後、決まってテイクアウトカップのブレンドコーヒーと、オールドファッションハニーを持って大学に向かった。
真っ暗な深夜3時からキッチンをこなし、開店と同時に上がる。
白み始める空と冷たい空気の中、駅のホームで頬張った甘いドーナツと熱いコーヒー。今日も頑張ろうと心から思えた。
卒業までの4年間、アルバイトを続けた。


それから私は社会人になった。
人見知りで大人しい子どもだった私は、まさかの営業マンになった。商談にも体力にも自信がない。一日に何件も得意先を回り、へとへとになりながら、無意識のうちに営業先の最寄り駅にミスドがないか探しては通った。

大きな契約を取り付けた日。
逆に失敗して落ち込んだ日。
ほんの少ししか休憩を取れない日。
得意先との接待で、頑張りすぎて飲みすぎた翌朝。
のんびりしたい日曜日。
私は決まって汁そばと、コーヒーと、ドーナツを食べていた。

そういえば、ひとまわり以上も年上の上司と一緒に外回りをしていた日も。
昼食は何がいいかと聞かれて、ミスドがいいですと答えたら笑いながら付いてきてくれたっけ。

何年経っても思う。
若いころのママも、こんな風に通っていたのだろうか。

嬉しい、楽しい、元気になる、ほっとする。
子どもの頃も、大人になった今も。

ドーナツを頬張り、ふと店内を眺めては思う。

昔はあそこにメリーゴーランドがあったな。
今はほとんど無くなってしまった。

最近のミスドは、昔より生地が軽くなったな。
これはこれで、ついつい2個目、3個目と食べたくなるんだよな。

その変わった姿もまた愛しかった。
食べた瞬間の幸せは、今も昔も変わらない。

いつだってミスタードーナツは、私にとってキラキラした、特別な場所だった。
今までも、これからも。


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ミスドのメリーゴーランド(拾い画)。1990年代にはこのメリーゴーランドが店内にあった。


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2016年頃。今は亡き飲茶(焼売と肉まん)を待つウエイティング札。


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2020年の期間限定大福ドーナツ。ウイスキーの牛乳割と共にいただく。

※悲しいかなバイトをしてた頃の写真はなかった。当時まだスマホではなかったので、そもそも写真を撮る習慣がなかった。時代を感じる……。



50年、ずっとそばにいてくれてありがとう。
これからもよろしくお願いします。

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