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『コーダ あいのうた』をみてきました

『コーダ あいのうた』を観てきました。アカデミー賞をとったから。
土曜の夕方の映画館はそこそこの人出で、4割くらいは埋まっている感じでした。かなり個人の感情によってしまったし、偏見ばかりで読んでいられないかもしれないけれど、感想文です。

私は自分が他人の物語を見ながら泣くのは好きではない。泣いたことで私だけなんかスッキリしてしまうのも嫌だし、自分が感じたことのある感情を引き出して増幅させて涙が出ているのではないかと感じて、自分のためにしかなっていないのではないかと思ってしまう。好きではないが結構な頻度で泣いてしまって、一人で気まずくなり言い訳を探している。
『コーダ』は、後半、音楽クラブの発表会あたりからずっと涙が止まらなくて、嗚咽しないように頑張らなくてはいけないくらいだった。この涙はなんの涙なのだろうと自問してみて、登場人物の感情やそれを表現した映像に、自分が普段感じているものを勝手に重ねて、共感してしまっているのだろう、といつもの結論に落ち着いた。あらすじを書いてないので見ていない方は訳がわからないかもしれないけど、「わからない」中で、必死にヒントを探して捕まえて、納得して安心する様子に、「わかる」と思ってしまった。
「わからなさ」とそれに伴う不安や孤独について。聾者の話だと思うと、途端に少し話しづらくなる。理解し得ないと思ってしまうからだ。私のわかってもらえなさ・わからなさと絶対的に違うだろう(そして私よりきっと「強力」な)ものに対して、同調や同情はできないし、理解してすらいないのに、偉そうに何かを語るべきではないだろうとか、ビビってしまう。安易な共感や、わかったような気になってしまうことは失礼なことで、恥ずかしいことだと思う。その一方で、分からないことも大きな声で言うには抵抗がある。言葉にすると目眩がするけれど、私にとって聾者は弱者であり、弱者は理解し寄り添うべき存在だからだ。

すこし話が脱線するけれど、小学生の頃、学校に視力が弱い方と盲導犬がきて講演をしてくれたことがあった。笑顔で、盲導犬との絆で充実した生活を送っていることを話してくださった。講演会が終わり教室に戻った時、担任の先生が「みんなどうだった?全然かわいそうじゃなかったでしょ?」と私たちに言った。その時は先生こそ正義だったので、彼女と犬はかわいそうじゃないことを見せにわざわざ小学校まで来ていたのか!と驚いた。そんなことをする必要がある人たちのことをそれまで知らなかった。正直、かわいそうか、かわいそうでないかで言ったらかわいそうだった。ただ、それを本人には絶対に言ってはいけないことも分かった。「かわいそうじゃないと思う=理解がある人になる」ということだと思った。わたしが彼女の名前も職業も覚えておらず、彼女の努力や優秀さ、環境を無視して、「目が見えない人であっても盲導犬がいてあまり不自由なく生活を送っており、かわいそうじゃない」という認識だけもってしまったのは、今思うと怖い。

『コーダ』では、聾である家族と、仕事の関係者などの間の通訳を、CODA(Children of Deaf Adults:聾の親を持つ聴力のある子ども)である主人公のルビーが担う。家族はルビーなしでは生活に支障をきたしてしまう。なかなか良い表現が見つからなかったのだけど、ルビーは、CODAである前に、ルビーであって、この映画にとってルビーがルビーになるために欠かせないのが歌であった。家族は歌を聴くことができない。ルビーが合唱をやっていることをお母さんに伝えた時、お母さんは「反抗期なのね」と言っていた。生活に子どもが重要な役割を担ってしまうこと、それが子どもの将来を狭めてしまう可能性のこと、子どもは親を選べないというのはよく聞くけれど同様に親も子どもを選んでいるわけではないし完璧なものを与えれば完璧に育つわけではないこと、ないものねだりのこと、言葉はいつでも足りていないこと、なんかを考えた。

『コーダ』で、印象的だったのは、両親が「デリカシーなくて最悪!」なシーンである。親も学校の人も本当に最悪!ルビーの気持ち考えたことあんの?案件だった。あまり聾であることとは関係がない。最悪案件だったけど、側から見るとすこしおかしくて、憎めなかった。本当に最悪ではあるんだけど。そのシーンのおかけで、ルビーの両親もまた、聾者である前に、ルビーの親である前に、フランクであり、ジャッキーであることを私は知った。

「わからなさ」と不安や孤独について、後半、家族とルビーの間に橋がかかるシーンがある。橋というのはもちろん比喩だけど、本当に橋がかかったように見えた。そのシーンのことを思い出すだけでかなり勇気がもらえる。

はじめの方に、共感のしづらさや、自分ごととして語れないことについて触れたが、コーダでは、それでも、失礼でも恥をかいても失敗しても、なにかしら言ってみることを肯定してくれている気がしたので感想をこうして書いてみた。

結局、映画を通して私は私のことを考えるしかできず、成長のなさを自覚したりもするけれど、大切な映画になりました。あと、めちゃくちゃ歌が素敵。サントラも結構聴いてます。

ちなみに、劇中にもでてくる🤟これ「I love you」だそうです。

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