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家でもととのうことができるかい


もうずっと前から給湯器の調子が悪かった。5回中3回ぐらいの割合でお湯を出して5分ほど経つと水になる。それはもうどこまでも冷たい水だ。お湯が水になるのにやや怯えながら泡をすばやく流している頃、やはりそのときはやってくる。寒いしびしょ濡れだし泡まみれだし、相当みじめな気分になる。給湯器のスイッチを入れ直す。そしてお湯が出る。出ればいいんだが、給湯器のリモコンがフリーズして押してもピッしか言わないときが10回に一度はある。こうなると、ベランダに出て給湯器のコンセントを抜き差しすることになる。冬ならこれは地獄だ。外気が気持ちいいのは身体が温まっていて心が安らいでいる時なんだから。

不調のはじまりは、去年の春先まで遡る。最初の緊急事態宣言下、家で歌っていたら苦情が入った。不謹慎ながらその電話口で不動産屋に給湯器の件を相談するとコンセントの抜き差しで様子を見てくださいと言われた。たしかに一時的に改善するが梅雨がきてだんだん頻度が増えた。なぜか雨の日は止まりやすかった。気まずくて連絡ができないまま夏が来た。夏は水シャワーで事足りた。長い夏がゆっくり終わり冷えてきても、だましだまし悲しくなりながらシャワーを浴びて暮らしていた。

そのせいなのか、なんとなくサウナや銭湯に行く回数が増えいつのまにかサウナにどっぷりつかっていた。(サウナがいかに…という点は時々書いているし、またゆっくり書きたいと思っている。)サウナ通いにより、みるみる心身の調子が良くなってきていた。水がやってくるタイミングを身体が覚えたのでさほど苦ではないような気でいた。

先週、数人の友が僕の部屋へ来て夜から朝までずいぶん酒を飲みにぎやかに過ごした。予感は的中し翌日不動産屋から電話が鳴った。ひどい迷惑をお詫びした。そしてついに、給湯器の件を相談した。またしても苦情のついでに…。

そして今日の夕方、給湯器とリモコンが新品になった。リモコンはいかにも最新って感じで嬉しくなった。さっそく風呂を掃除して湯船にお湯を張り始める。そこで真っ先に考えたことは
「はたして、家でもととのえるだろうか」。
まさに時代にぴったりな、おうち時間というわけだ。サウナや温冷浴で培った経験をついにこの部屋で活かすときがきたのだ。1年半ぐらい前に小杉湯で配っていたバブの発汗入浴剤があったはずだな…あったぞ、なんか興奮してきたな。。

家でととのうための計画は、熱い湯船で温まる→水シャワー→ベランダ外気浴の流れを繰り返すことだ。プロの人はバスタブの図上にビニール傘を設置するらしい。

お湯が誠実に湯舟にたまってくれたことにまずは感激。そういえば入る前に体を洗う工程があることを忘れていた。ユニットバスの便座に腰掛けて我ながら上手に洗い流し、いざお湯へ。風呂釜の上の方に水が抜ける穴が空いているので水位は半分ちょいでよかったんだよな。お湯多かったか。まあ久しぶりだからね。

熱いお湯にゆっくりつかる。とっておきの音を流しながら。入浴剤の効果もあり身体がぽかぽかしてきたらバスタブの縁に座って半身浴を交える。次に、できるだけ冷たい水シャワーを浴びる。思わず声が出ちゃうくらいのやつを。そしてすぐに体を拭く。あるはずのないバスローブの代わりを探していたら視界に躍り出たレインコートを全裸の上に羽織りベランダの椅子に座る。

ぜんぜん寒くない、いい感じだ。レインコートを剥がしたい衝動を抑え扇風機の風を強めて空を仰ぐと星が見えた。…すべてにありがとうモードになり全身が歓喜している。ぼーっとする。寒くなる手前でまたお湯につかりこれを3回繰り返した。

ととのいの度合いは軽めだったが、じつによかった。なんといってもここは自分の部屋だ。余計な刺激も情報もなく、むしろ好きな要素だけを取り入れることができるのが素敵だ。家での楽しみが増えた。やっぱり思う。こんなことならもっとはやくなおしてもらえばよかった。今こんな気分になれてるから、すべてはよしだ。

*追記
翌朝、起き抜けに熱いシャワーを浴びて、昨日の湯が冷めた水風呂に入って快晴のベランダに出た。ととのった。日々の無敵感が増した。

追い焚きできる家に住みたいなとか、でもこのワンルームで7歩でベランダに出れるのがいいんだよなとか、やっぱり一人暮らしでこそできることだよなとか、でもベランダでととのってるときに、やさしい人が水分や甘いものを持ってきてくれたりしたら幸せだろうな。とか

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