Sexy Zone「Dream」に見る恋の多義性
Sexy Zoneの8thオリジナルアルバム「ザ・ハイライト」のリリースから毎日、収録曲「Dream」のことを考えています。
楽曲提供者のiriさんのコメントによれば「もやもやとしたせつないラブソング」。ただメンバーの菊池風磨さんは「(「Dream」は)恋愛だけじゃない」と話していました。
ではこの曲で描かれた恋、恋しい気持ちとはどういうことなのか。聞いているうちにいろんな読み方ができたのでまとめました。
ここからずっと歌詞の話をするので、まだ聞いたことのない方は「セクゾ Dream 歌詞」で一度検索してみてください。
■恋の歌として
これはストレートな聞き方です。ただ、この曲のラストをどう想像するかは人によると思います。
私はハピエン推しでした。中島健人さんの歌うこの部分、
ここに全てをかけていました。光のアイドル中島健人の歌う「慣れない世界で君を見つけて」はもう絶対見つけてくれます。消えそうな手を掴んでくれます。だからこそ「夢みたいに綺麗に消えて……」で結論が濁されてるんじゃないんですか!?
しかしその部分の中島さんの歌声があまりにも切ないのです。中島さんの絶対ハッピーエンドにするパワーが曲に溶けているので「別れてしまったけれどこれでよかったよね」エンドを逃れられない気がするのです。
想像ですが、これはiriさんのディレクションがよかったんじゃないかなと思っています。アルバムの裏話をしていた動画「Sexy Zoneの立ち話してみた。-Day 2-」で中島さんは最初「俺は俺の歌い方をしたい」と思っていたことを明かしています。どういう歌い方にしたかったのかは不明ですが、仮に光のケンティーMAXだったら曲の聞こえ方はかなり変わったことでしょう。曲の世界観を作り上げてくれてありがとうiriさん、ありがとうケンティー。
……と、ここまで考えて思います。いやもうこの二人別れるじゃん。さすがの中島さんでもこの消える手を掴むことはできないじゃん。
この次の曲「Ringa Ringa Ring」が可愛らしいラブソングなので曲順を考えたらハピエンだとも主張していました。しかし「Dream」の二人が振り返る恋のハイライト(=今はここにないもの)が「Ringa Ringa Ring」という解釈もできると気づいてハピエン派の私は散りました。だいたい提供者のiriさんが「せつないラブソング」と言ってるのです。ハピエン派は最初から負け戦。
■ファンの僕とアイドルの君の歌として
今度は恋愛とは違う文脈で聞ける件について。菊池さんは音楽誌「MG」でこの曲の描く儚さについて「恋愛だけじゃなくて、友情もそうだし全ての人間関係に言えることなんじゃないか」と答えていました。まさにそうだと思います。
突然ですが、別界隈で推しているアイドルがこの秋に卒業します。
そして私は彼女の卒業と「Dream」をとんでもなく重ね続けています。音楽にもアイドルにも詳しくなかった自分が彼女のいるグループや彼女に出会ったのは「慣れない世界で君を見つけて」でしたし、卒業後は「たとえどこかで会えたとしてもそっと目を逸らしてまた歩き続けるでしょう」です。もうあらゆる歌詞が刺さります。
彼女のソロ曲「捕まえて♡So♡To♡Heart♡」が「Dream」の歌詞と重なるのもあります。
彼女のソロ曲は消えちゃう側の歌で「Dream」は消えられてしまう側の歌という印象。「夢の中で逢えたら♡ 名前は覚えていてね♡」と「Dream」の君も思ってくれているんだろうか。
菊池さんがラジオQrzoneで話していた「それぞれの思うDreamが引っ張り出されちゃうよ」を思い出します。私の思うDreamはこれだなと、アイドルとしてのおとはすと過ごす最後の夏のはじまりにそう思います。
■夢を追う僕と恋焦がれた夢の歌として
ここまで人間同士の話をしてきましたが、もっと概念的な夢や願いの歌として聞くこともできそうです。夢を追う僕と恋焦がれた夢の歌。「きらめいた景色だけが微笑み続けるだなんて…」あたりにはそれを感じます。ここは「だなんて……そんなことはない」の流れだと思うので苦しい。
この聞き方をするようになったのはDuet 7月号の菊池風磨さんのインタビューを読んでからです。後輩グループであるJr.SPの単独公演を見て、自分のJr.時代のグループであるB.I.Shadowを思い出したんだそうです。
これを読んだ後に聞く「Dream」、全然違う聞こえ方をするんです。
菊池さんは過去のインタビューで、B.I.ShadowがあったからこそSexy Zoneとしてのデビュー時に複雑な思いを抱えていたと話しています。
これをふまえて聞く「それじゃさよなら 僕らのたわいない日々よ」ってフレーズよ。
完全に聞き手が勝手につなげているだけですし曲に関しても彼自身の思い出に関してもこういう消費の仕方をするのってどうなんだと思います。ただこの件でウオォ……と思った瞬間から「Dream」で描かれる恋の見え方の幅がぐっと広がりました。申し訳ないとは思っているんだ、でも曲の世界が広がって震えてしまったんだ。
夢を追う僕と恋焦がれた夢の歌として聞くと「何度離れ離れになっても 慣れない世界で君を見つけて」は救いです。ある夢を失っても、慣れない世界を彷徨うことになったとしても、その先に別の夢、あるいは追いかけていた夢のかけらや続きを見つけるのかもしれない。そんな希望を感じます。
■別れで終わらない、その先
いろいろな見方の話をしましたが、総じて感じるこの曲の希望の話もさせてください。
サビで繰り返される「夢みたいに綺麗に消えてOk?」というフレーズ。大切なものが綺麗に消えていいわけはありません。Okじゃない、Noです。
でもどんなに足掻いても変わりゆくもの、消えてしまうものがある。その別れをどう受け止めるか考えたとき、この曲の「僕」はきっとこの別れも乗り越えて生きていくんだろうなあと思います。柔らかで落ち着いたサウンドゆえか、メンバーの儚くも優しい歌声ゆえか。「そっと目を逸らして また歩き続けるでしょう」という歌詞もそう思わせてくれます。
アルバム『ザ・ハイライト』は全体的に「きっとこれもいい思い出(=Forever Gold)だよね」というゆとりを感じる1枚。そのゆとり、現状を受け入れる柔らかさを「Dream」からも感じたのです。
生きていく上でそのゆとりや現状肯定力がないと、きっとどこかで折れてしまいます。過去に縋っていたら時間の流れから取り残されてしまうかもしれません。それもまた一つの幸せの形かもしれないけれど「Dream」は受け入れて前に進んでいるんですよね。
そうやって顔を上げているところがアイドルの歌だなあと感じます。アイドルはときめきとエネルギーを与えてくれる存在で、最終的なメッセージは「生」「動」に至ると思っているので。
「Dream」はたしかに切ない歌ですが、その思い出を心の片隅に置きながらその先も生き続ける人の曲なんだと思います。
■この恋は人間同士の恋愛に留まらない
この曲を聞いて思うのは、恋の対象は目の前の人だけではないなあということです。
恋しいとはどういう気持ちなのか、改めて調べてみました。
手の届かないところにあるもの、いつか消えてしまいそうなもの。そういったものに強く心を惹かれていればそれはきっと恋です。音楽に恋するとかその時間や空間に恋するとかそういうこともありますよね。
そして「Dream」で描かれる恋もそういう多義的なものだと感じます。私はアイドルの卒業などを重ねて聞きましたが、きっと他の聞き方もできるはず。広義の「恋」を抱く方はぜひフルで聞いてみてください。
アッ宣伝みたいになってあれなんですけど、CDを聞く環境がない方でもCDについてくるシリアルコードを専用アプリ「SZ10THアプリ」に入れれば曲を聞けます!
ちなみに試聴はYouTubeでもできます。