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産後パパ育休の記録② 会社への申請

意外な心理的障壁

 まぁこんな時代ですから、男性だって育休を取っていくべきだという考えは当たり前だと、私は心底思っている。しかし、私もまだ30代ではあるけども、なんだかんだギリギリ昭和生まれ世代の文化を引きずっているんだなと痛感した。

 意外にも「育休取ります」と言い出しにくかったのである。

 私の働く会社は比較的古い体質が根強い業界で、社員の平均年齢が高め。当然、個人個人の考え方も古めの方が多い。でも、そういう人たちに言い出すのが難しかったわけではない。あくまでも自分自身に刷り込まれてきた文化が、育休取ります、の一言を押さえつけていたように思う。

 私の父はサラリーマンで、母は私が中学生になるまでは専業主婦だった。祖父祖母とも同居していて、典型的な昭和の家庭だったのかもしれない。父や祖父は働きに出ていて、母と祖母が家事全般をこなす。父が家事をこなす姿はあまり記憶にない代わりに、あまり貧乏な思いをした記憶もない。

 男は外で稼ぎ、女は家を守るという古来のスタイルそのままだった。

 そんな父を見て育ったし、そんな父は「変」ではなく、周りにもたくさんそのような父親がいたので、私にはどうやら「男は黙って働くんだ」という価値観が刷り込まれていたのかもしれない。頭では「男だって家事ができないといけない時代だ」とか「男だって育児に参加すべきだ」と分かっていても、その刷り込みがあったから「(男ですけど)育休取ります」と言い出しにくかった。

 それに、私が育休でいない間の仕事がどのように進むのか、私の仕事が誰かに取られて、私が不要になってしまうのではないか、という不安もないことはなかった。どちらかと言えば自分はそんなこと気にするタイプではないと思っていただけに、自分がそんな不安を多少なりとも感じていることが意外だった。

 とはいえ、前回書いた通りの理由から我が家では私の育休取得はマストである。今の時代の父親になるんだ。自分は当たり前のことをしているだけだ。私の代わりなんかそもそもいくらでもいるし、私がいないだけで仕事が進まなくなるなら、それはそもそも私の仕事の進め方が間違っていたことになるし、そういう仕事の進め方はしてきていないはずだ。そう言い聞かせて育休の取得をモジモジしながら申し出た。

反応様々

 私の勤め先は、従業員数でいえば1,000人以上でそれなりの規模の会社だが、なんと私は男性育休取得者第1号だった。とはいえ、前回も書いた2022年の法改正を受けて、建前的には一応「産後パパ育休が新設されたからぜひ活用していくように」という通達は出ていたし、コンプラ最優先を経営方針に謳っていたこともあって、申請してみると表立って否定的な意見・態度と直面することはなかった。

 みんな、肯定的な態度だった。それには安心した。しかし、確実に全員が表面上の態度通りの心境ではないことは感じた。

 「うわ、めんどくせぇこと言い出したな、こいつ」という本音が見え隠れする人もいた。でもまぁ、これは時代の変換点というか、価値観の過渡期というか、仕方がないことだと思う。なんせ、私自身も「本当に育休申請しちゃっていいのかしらん……」と、言い出しにくかったのだから。

 人事部なんかは歓迎してくれた。男性育休の実績がゼロではなく「1」になったことで、様々なシーンでこの実績を謳うことができるようになるらしい。しかし、育休を取る際の手続きや育休手当の手続き(育休手当取得のための手続きは会社が進めるらしい)については、男性では私が第1号であるため、不慣れゆえの不便をかけてしまうかもしれないとのことだった。

 この人事部の反応はありがたかった。第2号となるであろう人たちが育休を申請しやすくなることは確実だ。

 一番負担をかけるであろう同じ部署の人間たちは、年齢層も比較的近いため、これを当然のこととして受け入れてくれた。幸いにも育休取得は急であることは一般的ではなく、多くの場合は妊娠発覚から出産までの最大10か月程度の準備期間を持てるので、引き継ぎや自分がいない数週間の体制づくりはゆっくり進められる。当然、同僚たちの負担は少し増えるが、最小限にとどめられたと思う。

 余談だが「育休取るんですね。ゆっくりしてくださいね」という言葉も頂いた。これ、私が男だったからよかったけど、女性に言ったら怒られるだろうと思う。産後の入院期間が終わってすぐの、生後5日目とかの新生児に24時間付きっ切りで生活をするのが産後パパ育休である。ゆっくりなんかできるとは思っていないし、ゆっくりしているとも思われたくない。

 育児休業を育休と呼ぶのではなく、育業と呼ぶことを東京都の小池知事が決めたらしい。「育休は休み」という言葉や漢字から来るイメージを変えることを目的としているようだが、この東京都の発表を聞いたときは「そんな小手先のことじゃなくて、根本的な改革が必要じゃないの?育休義務化とかさ」などと考えていたが、ゆっくりしてくださいね、と声をかけられたことで育休から育業への名称変更も必要かもしれないと、少し思った。

会社としてのメリット

 人事部からは「君のおかげでわが社も『くるみんマーク』の申請ができるようになるかも」という話もあった。

 くるみんマークとは、子育てサポート企業として認定された証らしく、厚生労働大臣名義でお墨付きを頂ける制度らしい。つまりは「わが社は男女関係なく、社員の育児への参加を重視していますし、会社としても十分サポートしていますよ」と、就職の説明会などで強調することができるのだ。

 前述のとおり私の勤め先は古い体質が多く残る業界にあるし、世間一般からもそういうイメージを持たれている企業だから、余計にこういった認定を受けているということが大切ないのかもしれない。

 かくして、育休の申請も認められ、子が誕生して妻子が退院したと同時に産後パパ育休を始められることとなった。

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